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マーヤ: -
フィル: ---
* フィルエンドフラグ(-)

「ううん……そんな無理に合わせようとしなくていいんじゃないかな? やっぱり自然にしてるのがいちばんだと思うよ?」
 確かに、フィルの身振りや表情は板について見えたし、それは樹の精である彼女の努力の賜物なのだろう。しかし、わざわざ動物そっくりに真似ようとまでしなくてもいいのではないかと朋也は思った。
「そうですね……。私もメッセンジャーの務めとして動物のコミュニケーションの仕方を勉強しているつもりなのですが、やっぱり動物のように振る舞うのは難しいですね。もともと私は森を構成する木の1本にすぎませんし……」
 朋也の台詞を聞いた彼女は何だかひどくしょげ返って見えた。
「それでは皆さん、道中くれぐれもお気をつけて。千里さんが無事に救出されることを祈っておりますわ。それから、朋也さん、これをお持ちください」
 彼女は朋也に木製のフルートを手渡した。
「これは?」
「神木の枝から作られた特別製のフルートですわ。森の中でその神樹のフルートを吹けば、その森に所属する樹の妖精を喚び出すことができます。どうぞ危急の際にお使いください」
「ありがとう。また会えるといいな♪」
 ヒト族としての精一杯の笑顔で彼女に別れを告げる。
「ええ。では、ご機嫌よう!」
 フィルはきらめく木洩れ日のような緑の光に包まれ姿を消した。一緒にここまで歩いてきてくれたけど、ほんとは木の生えてるところなら瞬間移動できるんだよな、彼女は。便利でいいなあ。もっとも、そのためには多量のエネルギーを必要とするに違いないけど。
 フィルと別れて森の反対側に目を向ける。ところどころなだらかな丘はあるが、ずっと丈高い葦色の草がなびく平原が続いている。森から原野を走る1本の道の行く先を目でたどっていくと、同様の街道が放射状に集まる大きな集落につながっていた。そこが、千里が囚われていると思われるビスタの街だった。
 朋也たち一行が街道に一歩踏み出したまさにそのときだった。
 不意に、草原の一角が奇妙なレンズでも通して見ているかのように歪み始める。いや、歪んでいるのは自分たちの目前の空中らしい。
 朋也は瞬いて目を凝らした。歪みは次第に大きくなり、ついには直径2メートルくらいにまで膨らんだ。そして、ぽっかり開いた空間の裂け目から、いきなり毛むくじゃらの足がぬっと差し出された──



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