「しょうがない、ネコにするよ」
どうせ変装させられるんなら、やっぱりネコがいちばんマシだ。
「ちょっと待って?」
ミャウが顔を近づけ、目を伏せると鼻をクンクン言わせる。こんなにそばに寄られるとちょっとドキドキするな……。
「いいわ、合格よ♥」
「合格って?」
「あんた、だいぶネコ族のスキルがついてきてるからね、体臭もネコとニンゲン半々ってとこ。エデンに到着したばかりってことにすれば十分通るわ」
スキルって匂いまで変わるのか? 自分の体臭なんて自分じゃわからないけど。そこまでとなると、嬉しいような恐ろしいような……。
「文句ニャイわね?」
ミャウがジュディに向かって眉を吊り上げると、彼女の方も肩をすくめて答える。
「ボクに訊くなよ」
ミャウが1人で街へ入り、雑貨店に必要なものを探しにいく。
しばらくして戻ってきた彼女が入手してきたのは──黒のウィッグ少々にジェルウォーターのハードのスプレー。こんなもんがエデンにあるとはなあ。優等生(?)の朋也は使ったこともなかった。千里も持ってなどいないだろう。まあ、エデンにも毛(髪もしくは体毛)が薄いのを気にしていたり、スタイルにこだわる市民の需要が結構あったりするのかもしれない。
これを使って本来の耳を隠し、その上にガチガチに固めた髪でできた贋の耳を作る。
「はい、出来上がり♪ こんニャもんでどうかニャ?」
「キャハハハッ♪ かぁわい~い♥」
マーヤが腹を抱えて笑いながら、コンパクトを朋也に差し出す。鏡に映った自分の顔を見ながら、彼はため息を吐いた。
はあ、一体何が悲しくてこんな格好しなきゃならんのやら……。オーラの色は前より一段と濃い紫になっていた。スキルもあるし、これなら一応ネコ族として通用はするだろう。紅彩の形も違うし、同族の男性は顔型も前駆形態に近いため、かなり違和感はあるが。
「ヘンなの」
顔をしかめてジュディが本音を口にする。千里のためだから我慢してんのに……。
「尻尾はぁ?」
「下手に付けて動かせニャイんじゃ怪しまれるだけだから、マンクスってことにしましょ」
「了解。服はどうすんの?」
「そのままでいいわよ。脱ぎたきゃ脱いでもいいけど」
……。学ラン着たネコか。ナメ○コみたいだな。
「それじゃあ、ビスタの街にお披露目に行きましょうかぁ~♪」
「1人で残りたくなってきたよ」
こうしてネコ族2名、イヌ族1名、妖精1名から成る一行はビスタの街の門をくぐることになった──