「しょうがないな……。じゃ、サボテンは?」
3人は黙って朋也の顔を見つめた。目が点になっている。長い沈黙のあと、ようやくマーヤが代表して質問する。
「いまなんて言ったのかなぁ~? クロテン? まさかサボテンの聞き間違いじゃないよ、ねぇ~~?」
「サボテンだけど」
再び長い沈黙。
「……単なる好奇心から訊くんだけどさぁ~、どうしてサボテンになりたいと思ったのぉ~??」
「変かな?」
実のところ、朋也がそれを選んだ理由は、今の彼がなぜかフィルと同じ樹の精のスキルを有していたため、植物のほうがよさそうな気がしたからだった。サボテンなら喋ったことがあるとものの本に書いてあったし。
「変ニャ!」
「変だよ!」
2人の意見が即座に一致するのは珍しいことだった。
「まあ、それ以前に実行不能だからしょうがないわねぇ~……」
そういうわけで、サボテン案は一顧だにされず却下となった。
「それにしても困ったわねぇ……。今のあんた、サボテンは論外だとしても、他の種族のスキルも体臭も持ってニャイから、詰まるところ得体の知れニャイ種族としか言えニャイのよね~」
えらい言われようだ……。
「!」
マーヤが何か思いついたらしくポンと手をたたいた。
「そうだぁ! この際だからぁ、種族不明ってことにしちゃいましょぉ~♪」
マーヤの考えた作戦というのはこうだ。実はエデンには、守護神獣がおらず、妖精たちも把握していない謎の種族が、北方の雪山や南の熱帯雨林などに棲息している可能性があるらしい。彼らは前駆形態ながら他の種族の成熟形態に近い能力を備えているという噂もあり、住民の間でときたま目撃談が持ち上がるとか……。
つまり、朋也の役柄は、マーヤが捕獲した未登録の原住種族の1頭というわけだった。
「じゃあ、変装しなくてもいいのかな?」
ホッと胸をなで下ろす朋也だったが、ミャウがきっぱり首を横に振った。
「駄目よ。ビスタには移民がたくさん来てるって言ったでしょ? ま、変装のほうはあたいたちが適当にやるから任せニャさい」
ミャウが1人で街へ入り、雑貨店に必要なものを探しにいく。
しばらくして戻ってきた彼女が入手してきたのは──黒のウィッグ少々にジェルウォーターのハードのスプレー。こんなもんがエデンにあるとはなあ。優等生(?)の朋也は使ったこともなかった。千里も持ってなどいないだろう。まあ、エデンにも毛(髪もしくは体毛)が薄いのを気にしていたり、スタイルにこだわる市民の需要が結構あったりするのかもしれない。
これを使って本来の耳を隠し、その上にガチガチに固めた髪でできた贋の耳を作る。
「はい、出来上がり♪ こんニャもんでどうかニャ?」
「駄目駄目! これじゃまるでネコじゃんかよ」
そう言って今度はジュディがミャウの手からスプレーを引ったくり、耳の先を曲げた。
「それじゃイヌと同じでしょーが!?」
2人で奪い合いを始める。何でもいいからとっととやってくれ……。
「じゃあ、こういうのはどうぉ? 右耳はネコで左耳はイヌってのはぁ? 新種らしくっていいんじゃないかしらぁ~♪」
こうして朋也の種族のデザインは妥協の産物となった。動物の基本は左右相称だと思うが……。更にマーヤの発案で触角も付けられる。3人でひとの頭をよってたかって玩具にしてるなあ。
「キャハハハッ♪ お腹痛いぃ~(>o<)」
マーヤが腹を抱えて笑いながら、コンパクトを朋也に差し出す。鏡に映った自分の顔を見ながら、彼はため息を吐いた。
はあ、一体何が悲しくてこんな格好しなきゃならんのやら……。オーラの色はやや緑がかっているものの、樹の精で通すのは無理がある。謎の種族といわれればその通りかもしれないが、朋也の心は限りなく不安になった。
「ヘンなの」
顔をしかめてジュディが本音を口にする。千里のためだから我慢してんのに……。
「服はどうすんの?」
「別にそのままでいいわよ。それとも脱ぐ?」
「遠慮する」
脱ぐのはやだったけど、学ラン着た未知の生物が一体どこにいるんやら……。
「それじゃあ、ビスタの街にお披露目に行きましょうかぁ~♪」
「1人で残りたくなってきたよ」
こうしてネコ族1名、イヌ族1名、妖精1名、未知の生物1名から成る一行はビスタの街の門をくぐることになった──