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 2人が大通りにつながる辻で次の行動について検討していたとき、向かいから歩いてくるイヌ族とネコ族の2人連れの姿が目に入った。やたら恰幅のいいヒマラヤンととぼけた顔つきのシベリアンハスキーだ。2人は行き交うひとびとの目も気にせず大声でしゃべりまくっていた。ヒマラヤンはなぜか関西弁だった。西日本にゲートが開いたときに移住してきたのかな?
「ほんま、ゲドはしょうのないやっちゃなあ」
「しょうのないよ、ホントにね」
 いまゲドって言ったか? ていうことは、千里をさらったあいつの仲間!? ジュディと目を合わせてうなずく。
「ジュディ、俺はあいつらを監視してるから、ミャウとマーヤを見つけてきてくれ」
「でも……」
 ちょっと心配そうに朋也を見上げる。
「どっちかが残らなきゃいけないんだから、しょうがないさ。お前はまだアルコールが完全に抜けてないし、2人を見つけるのはお前のほうが早いだろ? 応援が来るまで下手には動かないから安心しろ」
「うん、わかった。気をつけてね?」
 ジュディと別れると、朋也はすぐに尾行を開始した。さすがに彼らに正体がバレるのはマズイと考え、ウィッグを整え直し、もう一度耳が隠れているのを確かめる。
 それにしてもデカイネコだ。くせのかかった長毛のせいでなおさら太って見える。体重も胴回りもミャウの3倍はあるだろう。向こうでは10キロくらいあったんじゃないだろうか?
「ニンゲンの女に手出ししようなんぞすりゃ、兄ィが怒るに決まっとろうに。そんなこつもわからんのかいなあ」
 どうやら千里は無事なようだ。彼らが兄と呼んでいる人物がそれなりに紳士的であることを知り、朋也はホッと胸をなで下ろした。
「まあ、捕まえたんは自分やちゅうていい気になっちょったから、大目玉食ろうたんはいい気味やったけどな」
「いい気味、いい気味ね、ホントだね」
「……。ジョーとしゃべっとってもおもろないな」
「おもくない? そうね。おいら、ブブみたく重くないね、ホントにね」
「何やと!? おま、もういっぺん言うてみ!」
 ヒマラヤンにどつかれてハスキーがスッ転んだ。すぐ後ろを歩いていた朋也はあやうくブブの広い背中に鼻をぶつけるところだった。
「!?」
 ブブと呼ばれたヒマラヤンは不意に足を止めて顔を上げ、鼻をクンクン言わせた。
 ヤバイ、うっかり近づきすぎたか!? と思わず身をすくめた朋也だが、彼の注意が向けられたのは別のものだった。ブブは目当てのものを見つけるや、道の端に並ぶ露店の一つにドタドタと駆け寄った。ジョーもトテトテと後に続く。
「おばはん、このドラ焼き10個頼むわ。1個オマケでつけてぇな」
「2人で5個ずつにしてブブの分オマケ足すの?」
「ちゃうわ。10個全部わいのに決まっとるやん。オマケはお前の分や」
「おいらブブのオマケなのね。悲しいね、ホントにね」
 どうやら彼の鼻が敏感なのは食べ物の匂いに限られるらしい。確かにさっきから芳ばしい香りが漂ってはいたが。朋也も店先に並べられたドラ焼きを肩越しに眺める。なかなかボリュームがありそうだ。こんなの10コも頬張ってたら、そりゃ太るよ……。
 袋に入ったホカホカのドラ焼きを次々に口に放り込みながら、ブブはいかにもご満悦といった表情だった。
「いや~、ほんまエデンは天国やなあ♪ 露店の梯子もし放題やし。何せ、わいを拾った飼い主はうるさいこと抜かして毎食1食分しか出さんかったさかいな。逃げ出してきたんは正解やったわ。それに比べりゃ、菓子でも飯でも好きなだけ食わしてもろた分、捨てられた前の飼い主のほうがまだマシやったな」
「……おい、お前。本当にそう思ってるのか?」
「な、何や、おま??」
 いきなり声をかけられ、ブブは戸惑ったように朋也を振り返った。
「お前の拾い主が食事制限をしたのは、お前が糖尿病になったり肥満で早死にするのを心配してたからだろう!? それより、好き放題甘やかした挙句捨てたやつのほうがよかったっていうのか!?」
 朋也はつい我慢できなくなり、この飽食ネコにつっかかってしまった。
「むぅ!? お前……よお見たらイヌ族やないな? その格好見覚えあるで。お前、ニンゲンやろ!? そういや、ゲドがあの女と一緒にオスも1人いた言うとったが、こいつやな!?」
「ニンゲン? こいつ、ニンゲン? そういえばそんな匂いするね。半分おいらの仲間だけどね。変なやつだね、ホントにね」
「こらちょうどええわ♪ ゲドに手柄独り占めさすわけにいかんしな。ここはわいらが兄ィのために一肌脱いで、このニンゲンも引っ立てたろ!」
 しまった! ジュディには下手に動かないなんて言っときながら、とんだ失敗だ──



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