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千里: +
マーヤ: -
クルル: +
リルケ: +
* リルケエンドフラグ

「……」
 しばらく沈黙の時間が流れる。
「どうした? 答えられないのか?」
 この女性はきっと何もかもお見通しなのだろう。嘘を言って誤魔化そうとしても無駄だ──朋也はそう観念した。
「俺は……ニンゲンだよ」
 マスターの持っていたグラスが床に落ち砕け散った。店内がどよめく。
「ニンゲンだって!?」
 客たちは忌まわしい響きを持つかのように、その言葉を口々にささやいた。
「もうぉ、何バカなこと言ってんのよぉ~! あなたニンゲンじゃなくて学生さんでしょぉ~!?」
 マーヤが頭をポンポンたたきながらケラケラ笑う。フォローになってない気がする……。
 正体を口にしてしまった以上、これ以上ここにいても無意味だと、彼女を肩におぶったまま朋也は席を立ち上がった。店を出ようとして、カラス族の女の脇を通ったとき、彼女に足を引っ掛けられて思いっきりすっ転ぶ。マーヤはパッと朋也から離れたため、テーブルに激突するのを免れたが。
「きゃっ!」
 ウェイトレスの子が目を覆う。
「何すんのよぉ!! あたしの発見した未確認学生さんをキズモノにしないでよねぇ~!」
 再び朋也の頭に着地すると、カラス族に向かって抗議する。
「なるほど、確かにその耳を見れば一目瞭然だな」
 見下したような視線が突き刺さる。いつのまにか耳を隠していたウィッグがばっさり切られていた。店内のどよめきが一層大きくなる。いまや朋也に集まる視線の多くは怖れと蔑み、怒りの感情で満ちていた。
 わざわざ俺が変装したニンゲンである証拠を見せ付けたかったのか!? マーヤに怪我がなかったからよかったものの……。胸の内に怒りがこみ上げてくる。切っ先が触れて血に染まった耳を押さえながら、きっと相手をにらみつける。
「ちょっとぉ、あたしを神獣キマイラ様直属の特務妖精と知っての狼藉なのぉ!? 控えおろぉ~! このコンパクトが目に入らぬかぁ~!」
 印籠のつもりかい……。だが、それもカラス族の女には全然効き目がなかったようで、見向きもされなかった。「キマイラのばっきゃろぉ~!」なんて散々にけなしてりゃ説得力ゼロだけど。
「やめてよっ!!」
 その場の緊迫した空気を破ったのは、女の子の声だった。ウェイトレスのウサギ族の子だ。
「あの……助けてもらっておいて何だけど、そのひとは何もしてないよっ!?」
 彼女は少し怯えた表情を隠さなかったものの、それでも毅然として抗議した。
「何もしてない、だと?」
 カラス族の女は、ウサギ族の少女にも容赦のない視線を投げつけた。
「この者はニンゲンだぞ? 紅玉のアニムスを奪い、フェニックスを殺害し、エデンを崩壊の危機に陥れた──いや、今もなお陥れようとしている種族だぞ? ついさっきお前を脅かしたイヌ族の輩も、ニンゲンどもに捻じ曲げられあのように身を貶めたのだぞ? それでも、お前はこの者が何もしていないというのか!?」
 驚いたことにウサギ族の女の子は、彼女の威圧的な態度にも怖じずなおも食い下がった。
「確かに、エデンをメチャメチャにしたのはニンゲンだけど……でも、このひとじゃないよっ!」
 カラス族の女は強情な若いウサギ族を前にして少々面食らったようだ。
「……では、この場にいる者で票決をとることにしようか」
 そんな一方的な!? 居合わせたほかの客たちはさぞかし迷惑してるだろうなあ──と見回すと、何やらあちこちのテーブルで朋也をめぐる論争が起こっていた。結構野次馬なんだなあ、エデンの住人って。
「所詮ニンゲンはニンゲンさ」
「そうかあ? ひとの好さそうな兄ちゃんじゃないか」
「さっきのイヌたちよりゃよっぽど礼儀を弁えてると思うがな」
「俺は移住組なんだ。向こうでの連中の仕打ちは忘れねえ!」
「きっとあの妖精のお気に入りのペットなんじゃないか?」
「あれだけなついてれば安心ね♥」
 なにやら話が突拍子もない方向に発展している……。調子に乗ったマーヤが触角を手綱代わりにして引っ張る。
「ハイヨォ~ッ、どうどうぉ~♪」
 ペットというより乗り物じゃんか……。カラス族の女は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「じゃあ、このひとが悪いひとだと思うひとーっ!」
 ウェイトレスが挙手を呼びかける。ほとんどクイズ番組の司会者のノリだが。
 手を挙げたのは全体の3分の1ほど。
「じゃあ、このひとは悪くないと思うひとーっ!」
 残りの全員が棄権もせずに手を挙げる。朋也にとって意外なことに、賛成票を投じた中には移民のネコ族やイヌ族までいた。どうやらマーヤの演技(?)もそれなりに貢献したようだ。それと、ウェイトレスの彼女も。後でお礼言わなきゃな。
 カラス族の女は最後まで納得がいかないような顔をしていたが、もう一度朋也を鋭く見据えた。ま、まだやるつもりなのか?
「お前はどうなんだ?」
「え?」
「お前は自分自身に罪があると思っているのか? いないのか? 胸に手を当ててよく考えてみろ」
 朋也は彼女に言われたとおりに胸に手を当ててみた。
「俺は……」


*選択肢    罪はある    罪はない

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