「もちろん、間違ってなんかないさ」
クルルの真剣な眼差しに応え、励ますように朋也は言った。
「ほんと? 朋也もそう思う?」
「ああ。だって、昨日の酒場の1件のときだって、クルルのおかげでみんなニンゲンである俺のことを庇ってくれたじゃないか? どの種族にもクルルみたいに、種族に関係なく仲良くしたいって考えてる人はいっぱいいるんだと思うよ。今はモンスターの危険もあるし、移民は簡単に心を入れ替えられないだろうけど──まあ、それは俺たちの所為だけど……。でも、クルルの言うとおり、あきらめちゃ駄目だよな? 誰もが平和に暮らせる世界にしたいって、1人1人が願って少しずつでも訴えていけば、いがみ合ってる人たちもいつかきっと解ってくれるんじゃないかな?」
「そうだよねっ!!」
クルルの顔がパッと輝く。
「もっとも、俺のいた世界、モノスフィアに比べたら、今のエデンだって十分天国みたいなところだけどね。向こうじゃ、同じ種族同士だっていうのに憎み合ったり、奪い合ったり、殺し合ったりが日常茶飯事だし……」
「こ、殺し合っちゃうの!?」
今度は一転して震える声で訊く。
……。やっぱりクルルには刺激が強すぎたかなあ。自分の世界について彼女に話したことを朋也は後悔した。それこそ他の動物たちに対する仕打ちを教えたりしたら卒倒しちゃうかも。移民たちがモノスフィアでの経験談の数々を伝えていれば、エデンの住民も感覚がおかしくなって当然だよな……。
「はあ……何で俺の先祖はアニムスの封印を解いたりしたんだかなあ? 俺もエデンで他の種族に生まれてればよかったよ」
「ま、向こうでニンゲンがやってることニャンて、あんたみたいニャ世間知らずのガキンチョは聞かニャイ方が身のためでしょうけどね。あっちで生を享けた者にとっては、エデンの平和は生温くて居心地が悪く感じられるくらいだもの」
ミャウが追い討ちをかけるようなことを言う。
「種族同士の和解って、口で言うほど簡単じゃニャイわよ? 成熟形態の種族同士の争いが禁じられているのは、力を与える交換条件として神獣が決めたことでしょ? それが文明社会に参加する者に相応しいスタイルだって。本来は弱肉強食・優勝劣敗が自然の姿だもの。ネズミ族にあたいたちの前でリラックスしろったって無理ってものよ。あたいもイヌ族と懇ろにニャりたいニャンて思わニャイわ。ウサギ族とキツネ族やイヌ族の間だって同じことでしょ?」
「おや? そんなこと言ってる割には、ジュディとはずいぶん気が合うみたいじゃないか?」
ミャウをからかう。さっきだって、玉ネギが入ってないかどうか心配してたもんなあ。
「う、うるさいわね! 誰がバカイヌニャンかと……」
「クルルもジュディだったら全然平気だよ♪ 店に来たイヌたちみたいに乱暴な人は嫌いだけど」
「ボクもクルルやウサギ族のみんなには絶対ひどいことしないよ! 美味しいビスケットもらったし♪」
「やれやれ……さっきのは訂正ね。あんた、長生き出来ニャイよ」
「クフフ♪ まあクルルも、何もかもいっぺんに変えられると思ってないからいいんだ。世の中ってきっと、毎日ちょっとずつ良くなっていくものなんだよね♪」
クルルって本当にポジティブなんだなあ。でも、周りのひとびとを変える力ってのは、きっと彼女のようにあきらめないで気持ちを持ち続けることで得られるものなんだろう。世知辛い世の中だからってシニカルな物の見方しかできないんじゃ、結局何一つ変えられずにつまらないままで人生終わっちゃうよな──