角を曲がって視界に入ってきたウサギ族の女の子は──クルルだった。
「みんな、大丈夫だった? でも、すごいや! よく自力で出られたね!?」
もう少し早く来てくれてれば、マーヤも冒険的行為に及ばなくて済んだのにな──
牢屋を脱け出し、クルルとも無事合流できて一同ホッと一息吐いたところで、ミャウが彼女に質問を浴びせた。
「迎えに来てくれたんだからいいけど、こんニャに時間がかかった理由は訊いておきたいわね。あんたまでグルだと思うとこだったわよ?」
「うん、ごめんね、遅くなっちゃって。何とか誤解を解こうとしたんだけど、みんな頭に血が上っちゃっててさ。クルルまで押入れに閉じ込められちゃったんだよ~。さっきやっと脱け出せたんだけど」
「そっか。で、俺たちには一体何の嫌疑がかけられてるんだ?」
「えっと、それが……」
明らかに困惑の表情がうかがえる。
「今日、クルルたちが村に入る前に、カラス族の女の人が来てね。『お前たちはあのイヌどもに騙されている。男たちが村に返されることはないだろう。彼らを裏で操っているのは、今村に向かってきているニンゲンだ』って触れ回ってたんだって……」
「何だって!?」
カラス族の女──あいつか!? クルルは、例のイヌたちに絡まれたところを救ってくれた恩人が、そんな嘘を吐いて自分たちを陥れるなんて信じたくないんだろう。午前中に見た飛行物体はきっと彼女だったに違いない。一体彼女は、ウサギ族の村人を唆して利用してまでニンゲンである自分に復讐したいんだろうか? そこまでニンゲンに深い恨みを抱いているんだろうか?
続いてクルルは担いできた風呂敷包みの中身を広げた。
「はい。みんなの持ち物も捜しだしてきたよ!」
各自装備を確認する。これでひとまず安心だ。もっとも、村人たちと事を構えるつもりはさらさらなかったが。クルルの持ってきてくれたビスケットの残りを皆で分ける。ミャウも昼食抜きだったため、顔をしかめながら渋々口にした。
一行はもう一度村人たちに事情を説明するため、地上へ戻ることにした。
途中でネズミとゴキブリの合いの子みたいなモンスターに出くわしたのには驚いた。ミャウは「ガキンチョのビスケットよりうまそうだニャ~♪」なんて言ってたけど……。クルルに装備を取り返してもらって正解だった。
そいつらは湖からの水路伝いにやってきて、通風孔を通り抜けて村の食糧庫に入り込もうとするらしい。錠が取り付けられたのはもともとモンスター対策が目的だったそうだ。マーヤが通り抜けできるんじゃ、気休めにしかなりそうもないが。
「ご主人サマのこと、何か聞いた?」
階段を昇りながらジュディがクルルに尋ねる。
「詳しく聞いてないけど、やっぱりオルドロイにすぐ連れて行かれたみたいだよ」
そうか……。村人に誤解されたままでいいとは思わないが、千里のことを考えると、このままこっそり村を離れたほうが無難かもしれないな。クルルがいてくれれば、トラとの交渉も可能だろうし。
やっと地上にたどり着く。食糧庫は村の外れの離れにあった。クルルに外の様子をそっとうかがってもらう。
「大丈夫みたい。みんな、今のうちだよ!」
外ではもう日没が迫っていた。結局、ユフラファでもトラブルに追われて1日が過ぎちゃったなあ。
だが、彼らが安心するのはまだ早かった。
「やけに静かね?」
「ほんとだ。どうしたんだろ? クルルがこっそり脱け出してここへ来たときはいつもと変わらなかったのに」
村の中はしんと静まり返っている。不思議に思った朋也たちが一歩踏み出したときだった。
「きゃあああっ!!」
突然、静寂を破って女の子の悲鳴が響き渡った──