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11 ミャウの正体




「いやあ~~っ!! ちょっとやだったらぁ、こっち来ないでよぉ!」
 続いて聞こえてきたのは、ドタンバタンという激しい音──物を投げつける音? とドアの閉まる音だった。5人で顔を見合わせる。どうやら朋也たちの来訪とは無関係に、村で新たな事件が発生しているらしい。
 用心しながら、声のしたほうへ行く。荒い息遣いに混じって、何やら不明瞭なつぶやきが聞こえてきた。ジュディが立ち止まり、朋也の袖をぐいと引っ張る。怒りと怯えが半々といった表情だ。
「と、朋也! こ、この匂いは!?」
 村の中央にある広場の前まで来て、背をかがめてウロウロする人影が目に入る。あのズボン吊りは……間違いない、千里を誘拐したゲドだ!
 家々の窓から長い2つの耳がときどきチラチラと見え隠れしているのがわかる。みな家に閉じこもって外の気配をうかがっているんだろう。きっとあの好色なビーグルのことだ、村に男衆がいないのをいいことにセクハラし放題と踏んできたに違いない──
 と思ったが、それにしては何だか様子が変だった。ゲドはフラフラした足取りで、ときどき家の壁やら戸口にもたれかかっては両手でたたき、うめき声をあげている。まるで、怪物か火事にでも追われて助けを求めているかのようだった。
 彼のつぶやき声に耳を澄ます。
「……ゲヘ、ゲヘ……ハニーちゃん……マイベビー……俺様と……いいこと……しよう……ぜ……いいこと……」
 ……。
「あんにゃろ~、ウサギの女の子たちにまで手を出そうってのか!? イヌ族の面汚しめ~! 今度こそ懲らしめてやる!!」
 ジュディが顔を真っ赤にして憤りを顕にする。もっとも、威勢のいい言葉を吐いたものの、くるりと巻いた尻尾と少し震える足元は、前駆形態のときに受けたラブコールの後遺症がまだ残っていることを示していたが……。
 確かに台詞だけ聞けばジュディの言ももっともだったが、ゲドの顔つきはクレメインの吊り橋で出会ったときとはまるで別人だった。口からは泡を吹き、目も空ろで、今にも卒倒しかねないように見えた。
 当人がこちらを振り向く。気づかれた! だが、目はまだ据わったままだ。
「……女……女……女ぁ!!!」
 彼はいきなり4人に向かって走ってきた。ほとんど音速の勢いだ。朋也は身構える余裕もなく──抱きつかれた。
「おお、ハニーちゃん♥ やっと俺様の愛を受け入れる気になってくれたんだね♪ さあ、俺様と一緒に楽しいことしようぜ~、ゲヘヘ♥」
「うわっ、バカ!! やめろっ、この……俺は男だぁ!!」
 顔をベロベロ舐め回されながらも、朋也は身をもがいて必死に逃れようとした。だが、ゲドはしがみついたまま放そうとしなかった。ふざけた台詞とは裏腹の切羽詰った緊迫感が伝わってくる。凄まじい腕力も、火事場の馬鹿力に通じるものがあるかもしれない。
 朋也は激しい身の恐怖を味わった。セクハラを受ける女の子の気持ちがよくわかる。でも……このままじゃ本当に貞操がヤバイことになるかも!?
 他の4人はといえば、今の間に一目散に物陰や空中に避難していた。朋也がスケープゴートになってくれておかげで逃げられたといえるが。
「朋也ぁ、骨は拾ってあげるからねぇ~~」
「成仏してニャ」
 手を合わせる2人。お前らなぁ……。
「こ、こら! いい加減に朋也から離れろ!」
 ジュディよ、お前もか? そんな遠くから口撃するだけじゃなくて何とかしてくれ!
「ゲド……」
 その時、不意に低い声が響いた──



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