「もちろん、ジュディのこと怒ったりなんかしないけど……」
「ミオのこと、怒ってる?」
「ううん、怒ってないって言や嘘になるかな。さんざん人に心配かけといて、実はとっくに会っていたっていうんじゃ……」
「まあ、朋也が怒る気持ちはよくわかるよ。ボクも加担したことにはなるし、ほんとにごめんね」
しおらしい声で頭を下げる。ずっと朋也の気をもませ続けたことを気にしてるんだろう。
「お前が謝ることないって。ジュディは別に悪気があったわけじゃなくて、彼女に口止めされてただけなんだろ? ま、ミオのやつもホントに口の堅い友達を持ててよかったよな」
「へへ……」
照れくさそうに笑う。
2人はそれから村の隅々まで捜し回ったが、ミオの姿は見当たらなかった。もう一度地下の牢屋ものぞいてみたが、やっぱり彼女の姿はない。朋也の不安が次第に募る。
「あいつ、本当にまたどっか行っちゃったのかな? やっぱり俺と暮らすのが嫌で家出したんじゃ……」
「んなわけないだろ! 朋也に会わせる顔がなくて逃げてるだけだよ」
しょぼくれる彼をジュディが励ます。朋也は少し元気が出てきた。そうだよな、彼女が千里を見捨てるわけがないように、ミオだって俺を捨てたりしないよな? もっとも、彼女は気まぐれなだけに心もとなさは残るけど。
ミオは村の北にあるルネ湖の岸辺に1人で腰かけていた。足音でわかったんだろう、朋也たちのほうを振り返ったが、何も言わずにまた膝を抱える。朋也も彼女と同じように、湖面でユラユラ揺れている明るい月を眺めた。しばらくして、やっと彼女が口を開く。
「……まだ、怒ってる?」
「もう怒んのやめたってさ。よかったな!」
ジュディが答えると、ミオは噛みつくように彼女をにらんだ。
「うるさいニャ! バカイヌには聞いてニャイでしょ?」
「おいおい、そんな言い方はないだろ? お前に頼まれて彼女のほうでも口裏を合わせてくれたんじゃないか。大体、ジュディが千里と一緒にミオのこと捜すの手伝ってくれたから、俺たち再会できたんだぜ? おかげで事件に巻き込んじゃったけど……。2人には感謝しないとな」
「フミュ~……バカイヌばっか贔屓してぇ」
拗ねてプイと反対側を向く。ミャウを名乗っていたときはいかにも聡明なネコ族の印象があったが、今の彼女はどうやら甘えんぼの仔猫に戻ってしまったみたいだ。
「ホントにわがままなとこは全然変わってないんだから。ボク、先に戻ってるね」
ジュディは気を利かせてくれたんだろう。村の方へ戻っていく彼女を手を振って見送る。
それから、朋也はミオの隣の草の上に腰を降ろした。澄みきったエデンの空気のおかげで、星々は満月に近い月明かりにも負けずに色とりどりの光を放っていた。朋也は彼女をこのうえ問い詰めたりはせず、さりげなく話を運ぶよう努めた。
「こっちの世界にはいつ頃やってきたんだ?」
「フミュ~……20日前くらい、かニャ?」
「20日も経つのか!? やっぱりマーヤの言ってたことは本当だったんだな……。俺たちがエデンに来たのは、ミオが姿を消したその日の夜なのに」
「そんニャにすぐあたいの後を追っかけてきたの?」
ちょっと意外そうに訊く。
「ねぇ、あたいがミオだってこと、いつ頃からわかってた?」