「よし、そういうことならついてってやるよ。みんなは呼ばなくていいのかい?」
「島に行く手段は手漕ぎのボート1艘しかないんだ。2人でいっぱいだよ」
「そうか、じゃあ仕方ないな」
近くにいたマーヤに事情を伝えると、2人は早速湖岸にもやってあるボートの所へ向かった。村人も島にはたまに薬草を採りに行くくらいなので、小船が1艘あれば事足りていたのだった。危険なモンスターが出て以来、島に赴く機会はさらに減っていたようだが。
島までは20分ほどで着くので、専ら朋也がオールを握る。風もなく穏やかな水面を掻き分けていく。聞こえるのは彼の漕ぐ櫂の音ばかり。時折綿雲に遮られながら降り注ぐ日の光が目にまぶしい。のどかな1日だった。神殿で進行している不穏な事態が嘘みたいに思えてくる。櫂を漕いでいてさえ、朋也は危うく眠気に襲われるところだった。舟の中で向かい合ったクルルは、何だかピクニックにでも行くみたいに嬉しそうだ。
「いいお天気♪ お弁当持ってくればよかったね♥」
というより、ピクニック気分そのものだった……。
「おいおい、みんな真面目に仕事してるんだし、俺たちだけ遊んでるわけにいかないだろ? 目当ての草を手に入れたらさっさと帰らなきゃ。ビスケット焼く時間だってあるんじゃないか?」
「エヘヘ、そうだね」
ほどなく島に到着する。島自体1周するのに1時間もかからない小さなものだった。岸辺には草が高く生い茂っていて、見通しはよくない。件のハーブは島の中央付近に生えているというので、草を掻き分けて岸と反対側に進んでいく。クルルは長い耳をパラボラアンテナのようにクルクルとあちこちに向け、ヒゲをピクピクさせながら、周囲の気配をうかがう。
やがて草叢が途切れ、島の真ん中にポツリと1本だけある木立が見えてきた。木の根元の周りにはハーブが群生している。
「あった、あれだよ!」
クルルが走り寄ろうとしたそのときだった。身の毛もよだつ奇怪な鳴き声が辺りに響き渡ったのは──