戻る



ミオ: --
千里: -
ジュディ: +
マーヤ: -
クルル: -

「……俺、ミオが欲しいって言ったから、てっきり大事にしてくれるのかと思ったんだぜ?」
 本当は、何で忘れるんだよっ! と怒鳴りたいところだったが、朋也は懸命に自分を抑えた。それでも、つい声音に刺々しさが混じってしまったが。
 ミオは尻尾を左右に振りながら黙ってしばらくうつむいていたが、おもむろに握りしめていた首輪を朋也に突き返した。
「……返す」
 ベソをかいてまではいなかったけど、相当ヘソを曲げてしまったようだ。ちょっと大人気なかったかな?
「ごめん、言い過ぎた。持ってていいよ」
 ミオはなおも差し出した腕を引っ込めなかったが、しばらくして無造作に首輪をしまう。そのとき朋也ははっと気づいた。切れていた首輪が補修され、プラクティスによってその痕も目立たなくなっていたことを。
 ひょっとして、自分で直したのか? それは向こうの世界で2人のつながりを象徴するささやかな記念の品であり、彼女としては一種のお守りのつもりだったのかもしれない。大事だと思っていなかったら、わざわざ村まで取りに引き返したりしないだろう。
 だが、朋也が癇癪を起こしたことで、その効果も今やほとんど失われてしまったようだ。カイトの台詞を思い起こす。ミオがたとえ自分にとって何であれ、大切な存在であることに変わりはないはずだ。それなのに、自分は些細なことで腹を立てて彼女の気持ちを傷つけてしまったんじゃないか? もしかして、取り返しのつかないこと言っちゃったかも……。
 その場に漂う気まずい空気を追い払うように、クルルが提案する。
「はいはい、ケンカは終わりにしよ? ほら、正面にオルドロイの火の山が見えてるよ! 峠を越したから、目的地までもう半分を切ったし、ここらでお弁当にしちゃわない?」
「賛成ぇ~~♪」
「お腹減ったら戦もできないもんね。ボクもうお腹ペコペコ!」
 みんなでオルドロイ山の裾野に広がるスーラ高原を一望に見渡せる斜面でお弁当を広げる。
 朋也はミオの隣に腰掛けた。
「ごめんな、ミオ……」
 しつこいとは思ったけど、今はたとえもどかしくても謝る以外に気持ちを伝える方法が朋也には見つからなかった。
 だが、彼女の方は別に根に持つでもなくケロリとしている。もう一度首輪を取り出すと、左の手首にはめて見せびらかすように言う。
「どう? 鈴付のミサンガ。ニャかニャかイカすでしょ?♥」
 うなずいて微笑み返す。よかった、機嫌を直してくれて。
「……千里が無事だといいわね」
「ああ……」
 かすかに白い煙を山頂から棚引かせる火の山に視線を移す。2千m級の孤峰オルドロイの中腹に、周囲の赤茶けた岩肌と対照をなす白い人工の建造物が目に入った。それこそは、千里の囚われているフェニックスの神殿だった──



次ページへ

ページのトップへ戻る