「そんな、わざわざ取りに引き返すことなかったのに……。大変な思いさせちゃって、返って悪かったな」
ミオは照れ笑いしながら首輪を取り出すと、左手の手首にはめた。
「さすがにチョーカーってわけにもいかニャイから、腕輪替わりにするよ。どお? 鈴付のミサンガ、似合う?」
そう言いながら、気取って腕を伸ばしてみせる。
朋也がよく見ると、切れた首輪のバンドの部分が補修され、プラクティスによってその後も目立たなくなっていた。
ひょっとして、自分で直したのか? 彼女が向こうの世界での2人のつながりを象徴するささやかな記念の品を大事に思ってくれるのがわかって、朋也は嬉しくなった。
「う~ん、ちょっと斬新すぎる気もするけど……ま、いいんじゃないか?」
「エヘヘ♥ ありがとね、朋也」
そのまましばらく2人が見つめ合っていたので、焼餅を起こしたのかジュディが横槍を入れる。
「ほらほら! こんなとこで和んでる場合じゃないだろ? 早く遅れた分を取り戻さなきゃ!」
「ねえ、その前にお昼にしない? ほら、正面にオルドロイの火の山が見えてるよ! 峠を越したから、目的地までもう半分を切ったし、いい景色を眺めながらみんなでお弁当を食べるのも悪くないよね♪」
クルルが場を和ませようと持ちかける。
「賛成ぇ~~♪」
こうして一行は食事を兼ねて休憩に入った。オルドロイ山の裾野に広がるスーラ高原を一望に見渡せる斜面でお弁当を広げる。トラたちとの決着が着くまで休める機会はこれが最後だろう。
朋也はミオの隣に腰掛けた。
「……千里が無事だといいわね」
「ああ……」
かすかに白い煙を山頂から棚引かせる火の山に視線を移す。2千m級の孤峰オルドロイの中腹に、周囲の赤茶けた岩肌と対照をなす白い人工の建造物が目に入った。それこそは、千里の囚われているフェニックスの神殿だった──