足元が揺れた。火の山の奥深くから地鳴りのような低い轟きが響き渡る。まるで大地震か噴火の前兆のようだ。パーティーの仲間たちもトラの子分たちも、不安げに辺りを見回した。
「一体何が起こったんだ!?」
「わからんわ。今晩は神殿の完成を祝ってウサギたちも交えて宴会のはずやったんや。わいらが誰も聞いとらんことが始まったんは確かやな」
ブブが普段から細い目をさらに細めて答える。
「クルル、何だか胸がドキドキするよ……。村のみんなは大丈夫なのかな?」
クルルが今にも泣きそうな顔で訴えた。
「ご主人サマ!!」
ジュディも。
「……本気で神鳥様を復活させるつもりなのかしらぁ!?」
そう小声でつぶやいたマーヤの関心と不安はまた別のところにあった。
「俺はもうこうしちゃいられねえ! 兄貴のところへ行くぜ!!」
ゲドが叫んだ。
「わかった。俺たちも一緒に行こう!」
「おや、トラではないか?」
トラが呆然と立ち尽くしていると、背後で声がした。振り返ると、入口にベスが立ち、じっと自分を見つめている。彼の周囲には異様なオーラが立ち上っているのが感じられた。
「ベス……てめえ……」
「今までご苦労だったな。フェニックス復活のための手はずはこれですべて整った。後は生贄を捧げる儀式のみ……」
「ユフラファの民はどうしたっ!?」
激しい怒りに身を打ち震わせながら、トラはやっとの思いで声を絞り出した。
長い沈黙の後、ベスは同僚に今まで隠していた真実を明かした。
「……生命力の象徴たるフェニックスは、甦るとき大量の血を求める。神殿の完成のためには生き柱が必要だった」
「そんな話は聞いてねえぞ……」
「わかって欲しい。エデンを、世界を救うためなのだ! そのためならば、ウサギの村の1つや2つなど実に小さな犠牲だろう?」
今の出来事がすべて嘘だと信じたかった。だが、願いは虚しく打ち砕かれた。虐殺の号令を下したのは、彼がこれまで共に手を携えて仕事をしてきた男だった。そして、その事実は彼自身が共犯者に他ならないことを意味していた。
「……俺は神殿が完成したら、ウサギ族の連中を存分に労ってやるつもりだった。女房子供に再会できる日を楽しみにしてたあいつらを……。俺はあいつらに約束したんだよ。この仕事が終わったら酒を好きなだけ奢ってやると..あの嬢ちゃんにだって、たった今必ず村に還すと約束してきたんだよっ!!」
壁を拳で殴りつける。だが、その痛みも身をよじるほどの悔恨の心痛を打ち消すことはできなかった。
「あの女1人ならばやむを得ない犠牲だと俺は考えた。エデンに災いをもたらしたのは他でもないニンゲンの連中なんだからな。だが、俺は間違っていた。ベスよ……俺がこれまで何も言わずにあんたについてきたのは、あんたの受けた心の傷を知っていたからだ。おまけに、あんたとは同郷のよしみだ。だが、あんたに対する同情が俺の目を曇らせちまったらしい……。あんた、何を企んでやがる? 神鳥とアニムスを復活させて、一体何をやらかすつもりなんだ!?」
「トラ……君は腕っ節が強いだけでなく、頭の方もなかなか切れる男だったな。よかろう、これまでの多大な貢献に対する報償として、君にだけは特別に打ち明けよう。私の目的は、紅玉のアニムスを再生し──そして、今一度封印を解くこと」
「!! なん……だと!?!?」
驚愕に目を見張る。
「どうなると思う? ニンゲンどもの世界を上書きする形で新しい世界が創造される……そう、我々イヌ族がすべてを支配する王国がね」
ベスはゆっくりと通廊を往復しながら誰にも明かさなかった彼の秘密の計画を滔々と説いた。
「トラ……君は他者への共感を抱けるネコ族にしては類稀な男だ。ならば、我々イヌ族の置かれた立場もわかってくれるだろう? ニンゲンに虐げられるのみならず、他の種族からも、彼らの下僕、手先とみなされ、疎まれてきた我々の境遇を! だが、それももう終わりだ。もはやくびきにつながれることも、蔑まれ、罵られることもない! ニンゲンも他の種族もみな我らの前に平伏すのだ!」
そこでトラに向き直る。瞳の奥に冷たい謀略の光を灯らせて。
「君は本当によく働いてくれた。実際、君の尽力なくしては、これほど穏便に、これほど速やかに神殿を完成させ、今日を迎えることなど不可能だった。だが、そろそろ暇を述べる頃合かと思う。君ほどの逸材がわが同胞でないのは、ただただ残念でならないよ……」
「へっ、もう用済みになったんで抹そうって寸法かい……」
もはやトラにはベスとの対決を避ける理由はなかった。愛用の爪に指を這わせる。
「俺としちゃ、イヌ族だネコ族だと毛色の違いにこだわるのは好きじゃねえんだがな。あんたは俺のことをネコらしくねえというが、他人を利用して腹黒い奸計を巡らせるあんたのやり口こそ、およそイヌらしくねえぜ。あんたはイヌというより、まるでイヌの面を被ったニンゲンじゃねえか!!」
ベスの頬がピクッと引きつる。
「貴様ぁ、この私を愚弄することは許さんぞ!! ガルルルルッ!!」
牙を剥き出しにして本性を顕にするベスに、トラも全身から闘気を迸らせて応じた。
「フン、弱いイヌほどよく吠えらあ。おもしれえ、俺は大型犬だって怖えと思ったことは一度もねえんだぜ? 殺れるもんなら殺ってみなっ!!」
(注):ゲーム上では戦闘の勝敗によってシナリオ分岐。