神殿に巣食うモンスターに行く手を阻まれながらも、朋也たちは儀式が行われるという最下層に急いだ。トラとの勝負に勝ったときの楽観的な気分はすっかり萎み、嫌な予感が次第に膨れ上がっていく。
途中、イヌたちの一団──中にいたシェルティはビスタの酒場で会った奴と同じ気がした──とすれ違ったが、彼らは「俺たちは何も知らねえ!!」と怯えた声で喚くばかりで、転げるように入口を指して逃げていった。
昇降機が止まり、目的の階に着く。ドアが開くといきなり熱気に包まれた。壁の一方が崩れ落ち、眼下には白熱するマグマの湖が広がっている。ユフラファのウサギたちはどこへ行ったんだ? このフロアに閉じ込められていると聞いたが……トラは……そして、千里は!?
祭壇に向かう通廊を駆けていた一行の足が止まる。扉のそばに誰かが倒れていた。トラだった。
「!! トラ! おい、しっかりしろっ!!」
「兄貴ーッ!!」
3人の子分たちが駆け寄る。
「ひどい火傷だよ!」
クルルが泣きながらポシェットの中の薬を掻き回す。マーヤはすかさず全力でヒーリングを施そうとしたが、しばらくして首を振りがっくりと肩を落とした。
「駄目ぇ、ただの火傷じゃないよぉ~」
手の施しようがなかった。毛皮は黒く縮れ、ところどころただれた皮膚がめくれている。マーヤはヒーリングを神経ブロック中心に切り換えた。彼らにできることはもはや苦痛を少しでも和らげることしかなかった。
「うう……朋也、か……。俺としたことが抜かったぜ……」
少しうめいてうっすらと目を開く。この状態で意識を保てること自体奇跡に近い。
「兄ィッ!!」
「兄貴~~ッ!!」
泣きじゃくる3人にかすかに笑いかける。
「フッ、俺のために泣いてくれるのか、お前ら……。すまねえな……もうお前たちの面倒をみれなくて……」
「兄貴……兄貴なしで俺に1人で生きろっていうんですかい? そんな殺生なこと言わないでくれ!」
「おいらも兄貴なしじゃ生きていけないよ、ホントにね」
「ホンマやがな。兄ィがおるからわいら踏ん張ってこれたんでっせ!?」
「情けないこと言うんじゃねえ。さっき朋也たちと闘ったときだって、お前らは全力でぶつかったじゃないか……。自分を信じろ……大丈夫、お前たちならもう俺がいなくたって十分やっていけるさ……。そうだろ? ゲド、ブブ、ジョー……俺のかわいい子分たち……」
それから彼はクルルのほうに目を向けた。
「嬢ちゃん、すまねえ……。ユフラファの村人たちを助けられなかった……」
クルルははっと息を飲み、両手で顔を覆う。
「ベスの目的はそもそもエデンを救うことじゃなかった。復活させたフェニックスと紅玉を利用して、自分がニンゲンに成り代わって世界の王になろうってのが奴の魂胆だった。俺はその片棒を担がされて、村人を苦しめ、あまつさえ大勢の命まで奪っちまったってわけだ。こいつは罰が当たったんだな……。もっとも、俺の命なぞいくらくれてやっても償いにゃならねえが……」
「ベスの野郎!! 同じイヌ族として絶対許せないっ!!」
ジュディが拳を握りしめる。
「朋也……奴を止めてくれ。お前さんの彼女はまだ間に合う、早く行ってやるんだ……」
「わかった」
「……なあ、朋也……お前さんさっき、彼女も、エデンも、両方見捨てやしないって言ったよな? 俺はお前さんを信じる。こんなことを頼めた義理じゃねえのはわかってるが……もし、姉ちゃんを助けられたら……どうかエデンを……ウサギの嬢ちゃんや、俺のかわいい弟たちや、みんなが暮らすこの世界を……救ってくれ……頼む!」
「ああ、約束するよ。誰も悲しまずにすむ方法を必ず探し出してみせる。お前の好きなこの世界は壊させやしない!!」
朋也は力強くうなずきながらトラの手を固く握り返した。
「ありがとよ……。もうこのうえ思い残すこたあねえ……」
大きく安堵の息を吐く。
ミオがそっと朋也の肩に手を置いた。