朋也は振り返ってうなずくと後ろに下がった。事情を察した3人の子分たちも場所を空ける。
「トラ……」
ミオはトラの頭をそっと膝の上に抱きかかえ、手を握った。
「ミオ、か……。フッ、思い出しちまったぜ。そういや、俺も昔、お前さんにぞっこんだった時期があったっけなあ……」
自嘲気味に微笑む。彼女も彼の目を見て微笑み返した。未だかつて見せたことのない慈愛に満ちた表情だった。ミオの横顔を見て、聖母か菩薩のようだと朋也は思った。
「あんたがイイ男だってことは今でも否定しニャイわよ」
「お前さんをめぐってカイトとやり合ったっけ……。あのとき結局、お前さんがやつの方を選んだもんから、俺の方から身を退いてやったんだぜ……。やつには会えたのか?」
「すれ違いだったわ」
「そうか……」
トラの声は次第にか細く途切れ途切れになっていった。最期のときが近づいていた。
「なあ、ミオ……俺はお前さんのことが心底うらやましかったぜ……なぜって、お前さんはこの兄ちゃんにずっと見守ってきてもらえたんだからな……。考えてみりゃ、俺はどこかでニンゲンを完全には信用していなかった。世話になった家にだって結局どこにも居着かなかった。だから、あんな目に遭ったのかもしれねえな……。俺も朋也みてえにいいやつと巡り合えてりゃ……」
もう見えているかもわからない目で再び彼女の顔を見上げる。
「ミオ、朋也を……こんないい兄ちゃんを、悲しませるような真似だけはするんじゃねえぞ? 俺の地獄落ちは決まりだが、お前さんは……こっちに……来るな…………よ……な…………」
3人のすすり泣きが号泣に変わる。誰も面を上げることができなかった。
その中で、ミオは静かに彼の頭を下ろし、両手を胸の上で重ねると、すっくと立ち上がった。
「……朋也、行くわよ」
「ミオ……」
朋也はその場を動く気にもなれず、ただ呆然として彼女を見上げた。
「彼の言ったこと、聞こえニャかったの!? 急げば間に合うわ!!」