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 ベスは黒い眼を爛々と光らせ、大剣を抜いて身構えた。全身から吹き出る闘気はトラにも引けを取らぬほど威圧的だったが、彼とは違いドス黒い闇の気配をまとっているのが感じられる。
 と、マグマの瘴気が凝集しベスの周りに集まりだした。やがてそれらはヒトとイヌのキメラのような異様な姿をとり、まるでベスを援護するかのように朋也たちに向かって威嚇の奇声を発した。
 まさか、モンスターを操っているのか!? いや……それとも、彼を取り巻く邪悪な気に共鳴し、吸い寄せられているだけなのか……。
 彼はうなりを上げて朋也目がけて突っ込んできた。差し渡し1メートルは下らない大剣を続けざまに振り下ろす。
 爪による攻撃が主体の朋也は、リーチの差がある分明らかに不利だった。1人で彼と互角にやり合ったトラはやっぱり格が違う。
 追い込まれた朋也をかばい、ジュディがすかさず割って入る。だが、彼女も自分を上回るスキルを持つ大柄な同族の凄まじい剣圧に押され気味だ。
 ミオが目で合図する。ここはやはり3人のタッグを活かすしかない。フォーメーションを組んで同時に飛びかかる。
 身のこなしではさすがにトラに劣るベスは、三方からの攻撃を防ぎきれなかった。だが、朋也たちの渾身の一撃も、分厚いダブルコートの毛皮とその下の鋼のような筋肉に阻まれ、かすり傷しか負わせられない。
「くっそぉ!!」
 ジュディが歯噛みしてうなる。
「笑止だな。そんな稚拙な腕で私を倒そうなどと考えるとは。トラとでさえ比較にならんよ。なぜだかわかるか? お前たちは何も失っていない、何も奪われていないからだ! まあだが、この女の命を獲れば……お前たちも少しは実力以上の力が発揮できるかもしれんな。え? 試してみようか?」
 ベスはあてつけるように千里にちらっと目をやり、残忍な笑みを浮かべた。
「そんなこと、させるものかああっ!!!」
 ジュディの全身から凄まじい剣気がほとばしる。彼女の性格を知っていればそんな挑発をする愚は避けたろうに。
 だが、こっちとしてはこの機会を逃す手はない。軍師役のミオが全員にジュディの援護を素早く指示する。クルルが回避率と命中率をアップするスキル、マーヤが攻撃力をアップするスキルをジュディに集中させる。ミオと朋也はベスの体勢を崩し注意を削ぐべく、2人して攻撃をたたみかけた。
「牙狼っ!!」
 あふれ出す闘気をすべて剣に乗せ、閃かせる。イヌ族のスキルの最上位に位置する必殺剣だ。ゲドの上積みしてくれたスキルがなければ発動し得なかった技だった。
「ぐはっ!!」
 まともにくらったベスはもんどりうって仰向けに倒れた。大剣は根元から真っ2つに折れている。
「バ……バカな!?」
 ベスは膝を着いてかろうじて上半身を起こすと、信じられないといった目つきで故郷を同じくする若い同族を見つめた。
「ボクは失わないぞ! 絶対に失ったりするもんかっ!!」



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