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「ギャァァーーッ!!」
 フェニックスはベスの無念の叫びに呼応するかのように一声鳴くと、火の玉を彼目がけて吐き出した。
「ぐおおおおっ!!」
「ベス!!」
 トラを焼き殺したのと同じ霊気の炎が襲いかかり、ベスは火だるまと化して身悶えした。
 フェニックスは続いて朋也たちに視線を移した。千里以外はみんな標的とみなすつもりなんだろうか!?
「みんな、来るぞっ!!」
「お願い、神鳥様ぁーーっ! 目を覚ましてぇーーっ!!」
 マーヤが金切り声で叫ぶ。だが、彼女の必死の懇願も虚しく、神鳥は5人に向かって獄炎を吐き散らした。
「ケェェーーッ!!」

 マーヤとクルルがスキルを最大出力で発動させる。次の瞬間、凄まじい熱気が襲った。一行が何とか持ちこたえられたのは、カイトのくれたダイヤモンドのおかげもあったかもしれない。
「みんニャ! いいわね……あいつは神鳥じゃニャイ。ただのボス級モンスターだと思いニャさい!!」
 ミオが鋭く指示を出す。
「そんなこと、できないよぉ~~」
 マーヤが激しく首を振る。
「……あんたは回復と防御に専念してくれればいいわ。朋也! ジュディ! 行くわよ!!」
 トラとベスを相手にしただけでもボロボロだったのに、よりによってこの世界の守護者である神獣の1頭と闘う羽目になるなんて……。そもそも不死の神鳥を倒せるわけがないのに。ご先祖はいかなる手段を用いたのかそれを成し遂げたことになっているが。
 それでも、千里と自分たちが生き延びるために、今はこの場を凌ぐ以外にない。
 フェニックスは蹴爪と嘴の攻撃を交えながら、ルビーLVⅢとターコイズの魔法を立て続けに放ってくる。威力はこれまで闘ってきたモンスターの比ではなく、リルケのそれをも上回った。
 が……最強の神獣にしてはいま1つの感がなくもない。それに、攻撃のパターンも単調で戦略性に欠けていた。空中にいる分、圧倒的に有利に戦闘を進められるはずなのに、低空に留まってわざわざ朋也たちの攻撃を受け続けたり……。ミオの指示ではないが、いま彼らの相手にしているフェニックスは神というよりまさにモンスターそのものだった。
 今回もジュディの活躍がものを言った。相手が宙を飛び回っているだけに直接攻撃はなかなか当たらないため、剣圧を飛ばして遠距離の敵を攻撃するスキルである飛燕剣を連発する。
 剣を受けるたびに羽毛を舞い散らせながら身悶えしていたフェニックスの動きが急に止まった。苦しそうにもがき、再び身体が発光し始める。脈動する光はそのまま千里に向かって流れ込んでいく。まるで魔力を吸い取られているみたいだった。
「……ギッ……グゲ……ガ……!!」
 神鳥の身体は瘧にかかったように震え、羽毛の下の皮膚が蛆虫でも這っているかのように波打つ。神の鳥に相応しい厳かさなどもはや微塵も感じられなかった。真っすぐ伸びきった首筋に痙攣が走り、嘴からは泡を噴き出し、まさに断末魔の様相だ。生気のない眼球が裏返る。次の瞬間、全身の羽毛が一斉に飛び散った──



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