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「いやあああっ!!」
 クルルが両手で顔を覆って絶叫する。
「あ……あ……そ……んなぁ……」
 マーヤは青ざめた表情で口元をわななかせていた。
「うげ……ゾンビ化してる……。マズソ‥
 ミオがうめく。最後の台詞は何だ……。
 そこにいたのは7色の羽を持つ美しい神の鳥などではなかった。死してなお命を貪る巨大な骸。極彩色の羽の代わりにどす黒い瘴気を身に纏ったそれは、先ほどまでとは打って変わって、明確に千里をターゲットに定めて攻撃し始めた。
「きゃあああっ!!」
 身体を縛りつけていた見えない力からようやく解放された千里は、嘴と蹴爪の攻撃から逃れようとしたが、足がもつれて再びその場にしゃがみ込んでしまう。
 朋也とジュディはとっさに前に飛び出した。クルルが回避スキルを千里にかける。
 再び朋也たちとルビーの守護神獣とのバトルが始まった。連戦に次ぐ連戦だけに鉱石も体力もほぼ底をつき、神鳥がさっきと同じステータスのままだったら勝ち目はなかったろう。
 だが、ゾンビ化したフェニックスは攻撃のパターンまで様変わりした。攻撃魔法のルビーやターコイズを使ってこなくなったのは、パーティーにとって救いだった。その代わり、禍々しい瘴気の渦を吐き散らしてくるようになった。マーヤが毒治癒効果のあるセラピーのスキルを切れ目なく行使し、かろうじて防ぎきる。
 朋也たち3人は連携攻撃を2度、3度と繰り出したが、どうしたことか、ミオとジュディの攻撃はほとんどダメージを与えられない。
「牙狼っ!!」
 ジュディがベスを倒した奥義の必殺剣を放つが、ゾンビフェニックスは平然としており、効いた様子がない。
「バカイヌ! 無駄ニャことはやめニャ! それよりもいいこと? あいつにはヒト族の攻撃しか効かニャイ。全員で朋也をバックアップするわよ!!」
「わ、わかった!」
 そう言うと、ステータスを倍加するフルムーンのスキルを朋也にかける。朋也はジュディをサポートする体制を切り換え、自分が先頭に立って攻撃役に専念することにした。ネコ族のスキルのおかげでいまの彼はオリンピックの陸上選手並の跳躍力を発揮できたが、やはり飛行能力のある相手は骨が折れる。おまけに相手が骨だけに、ときどきグシャッとかポキッとかいう音を聞く度に気分が萎えてしまう……。
 ところで、攻撃するなと人に言っておいて、何でミオは自分だけ攻撃してるんだ?
「やたっ、朱雀の羽衣ゲットニャ♥」
 どうやらネコ族の持つ泥棒ネコのスキルを使っていたらしい……。
 フェニックスの動きがだいぶ鈍ってきた。翼や肋骨も歯の抜けた櫛状態になっている。朋也自身の体力も限界に近づいていたが、最後の気力を振り絞り、ジュディに倣っていまの自分に使いこなせる最強スキルの発動を試みる。
 ネコ族の奥義は相手に隙を与えず連続攻撃をたたみかける乱れ撃ちだ。レベルがMAXなら九連打まで可能だが、現時点の朋也のスキルでは5回連続が限度だった。
「五生衝ッ!!」
 一際高く跳躍して神鳥の懐に飛び込むと、分厚い胸骨目がけ立て続けに爪を振り下ろす。
「ギャァァーーッ!!」
 頚骨の連なりから成る長い首を仰け反らせて悲鳴を上げると、フェニックスは力尽きて飛翔能力を失ったかのようにマグマの海に降下していった。
「神鳥様ぁぁーーーっ!!!」
 マーヤが祭壇の突端に駆け寄って叫ぶ。一緒にマグマに飲まれやしないかと一瞬肝を冷やした。
 フェニックスの骸は溶岩の海に沈み、見えなくなった。波紋が消え、やがて辺りは何事も起こらなかったかのように静けさを取り戻した。
「火口に身を投げた……死んだのか!?」
「死なないよぉ……神鳥様は不死身なんだよぉ……死ねないんだよぉー!」
 頬を伝う涙を拭いもせず、マーヤが朋也の疑問に答える。
「ゾンビになったまま……未来永劫マグマの海の中でもだえ苦しみ続けるんだよぉー……なんで……どうしてこんなことに……ひどいよぉ あんまりだよぉ……あんまりだよぉぉーっ!!」
 くるりと背を向けると、彼女はそのまま儀式の間を飛び出していった。
「マーヤ……」



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