朋也は少し首をひねってから答えた。
「そりゃ、俺がいないといろいろ困るからだろう?」
「あたいが? あんたがいニャイとやってけニャイって言うの??」
ミオは目をぱちくりさせて聞き返した。
「う……いや、そうとも言えないか……」
確かに、あっちの世界で食事や住居など生活環境を整えてやったのは朋也だったが、それだけが理由なら、エデンでは彼の必要性はまったくないことになってしまう。もっとも、ミオなら向こうでだって自立して生きていけないことはなかったろうが……。
「けど、俺がいたほうが何かと便利だとは思ってんだろ?」
格はだいぶ落ちるが、せめてアメニティの一環として必要とされていると思いたい。
「まあね♪」
彼女はニヤニヤしながらその点については同意した。
「でも、ハズレよ。いいわ、それは朋也への宿題ってことにしといたげる。せいぜいじっくり考えて答えを出してよね……」
ミオは立ち上がって背伸びすると、彼に向かって軽く手を振った。
「それじゃ、bye♥」
身を翻して神殿の屋根の上に飛び降りる。朋也がミオのいた見張り台の縁に駆け寄ったときには、もう彼女の姿は見えなくなっていた。
「あ~あ、行っちゃったよ」
1人塔の上に取り残されてため息を吐く。カイトもそうだったが、とんでもない運動神経だ。前駆形態のときとの身長差を考えれば、この程度の高さからジャンプするのはわけないのかもしれないが。朋也にはとてもここから下まで一息に飛び降りる勇気は出なかった。
それにしても、まさか宿題を押し付けられるとは思わなかったなあ。ひょっとして、またからかわれてるだけなのかな? まあいいや、向こうに帰るまでじっくり検討してみるか……。
そこで朋也ははたと考え込んでしまった。向こうに帰る、か……。ミオはどうするつもりなんだろう? 俺はどうしたらいいんだろう?
それは彼にとって、ミオに出された課題以上の難問だった。宿題の提出期限──すなわち神獣キマイラが覚醒するまでの時間はあまり残されていない。できることなら、期限がいつまでも来ないで欲しかった。
もっとも、キマイラがすんなりゲートを再開して朋也たちの帰還にゴーサインを出すかもわからない。それに、紅玉をめぐる今回の事件については、神獣に直接確かめなきゃならないことがある。トラとも約束したんだし……今はクヨクヨ考えていても仕方ないか。
ミオの去っていった方角を眺めながら、朋也はふと思い出した。
「そういや、あの時もそうだったっけ。俺が軒下にぶら下がってSOSを発してんのに、あいつは知らん顔してどっか遊びに行っちゃったんだ。アハハ!」