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17 カイトの策謀




 神殿3階の一番奥まったところにある一室──マーヤはキョロキョロと周囲をうかがって誰もいないことを確かめると、コンパクトを開けた。小さな鏡の中に青みがかったグリーンの光が現れ、緊張した彼女の顔を照らし出す。
≪……では、女は確かにフェニックスの霊光を浴びたのだな?≫
 低い威圧的な声が響き渡った。よく聞くと3つの声音が重なり合い、同時にしゃべっているようだ。
「はい……」
 マーヤは少し震える声で返事をした。
≪ご苦労だった。後のことは別の者が引き受ける。お前の役目はここまでだ。下がってよいぞ≫
 声が途絶えると同時に、緑の光も消え、鏡にはいつもどおり彼女自身の顔が映し出された。自分で言うのもなんだが、怖い顔つきをしている。
 大きくため息を吐く。胸がチクリと痛んだ。朋也たちは事件がこれですべて片付いたものと思っている。だが、彼女は知っていた。これからすべてが始まるのだということを……。
 ≪彼≫が何を考えているのか、本当のところはわからない。わかるはずもない。千里をどのような運命が待ち受けているのかも。だが、正直無事で済むとは思えなかった……。
 しょんぼりとうなだれながらマーヤが部屋を出ようとしたとき──目の前にミオが立ってこっちを見ているのに気づき、「あ・・」と小さく声をあげた。いつの間に!?
「ミ、ミオ……」
 マーヤはじりじりと後ずさりした。が、後ろは壁で逃げ場はない。
「一体誰と話してたの?」
 にじり寄りながら、ミオはやっと口を開いた。次の瞬間、マーヤにとびかかって首根っこを押さえる。
「は、離してぇ~~!!」
 手足をバタバタさせてもがくマーヤに顔を寄せると、彼女は声を潜めてささやきかけた。
「そんニャにあわてニャさんニャって。何も捕って食おうってんじゃニャイから……。あたい、前々からあんたのことアヤシイとにらんでたのよね~。さあ、正直に白状おしよ? みんニャには黙っといたげるからさ。それとも──」
 そこで、これ見よがしに白く光る牙を剥き出し、舌なめずりして見せる。
「ホントに食ってやろっか? 蜂蜜でもまぶしたら、あのガキンチョのビスケットよりよっぽど美味しそうかも♥」
 冗談にしては目が全然笑っていない……。マーヤはただちに降参した。
「わ、わかったよぉ~。言います、言いますぅ~~。だから、そんなマジな目で見ないでぇ~~」



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