夕べ遅かったこともあり、朝はみんなゆっくりだった。もっとも、もう期限に追い立てられる必要はなくなったのだし、寝坊くらいしたってバチは当たるまい。だが、朋也自身は久しぶりにぐっすり眠れたともいえなかった。千里を無事に救出できて胸の支えはとれたものの、あれだけ多くのことが一時に起きた晩だけに、結局考えごと(〝彼女〟のことも含め……)にふけってまんじりともせず夜を明かしてしまった。
太陽が昇ってからさすがに眠気が襲ってきたが、あんまりみんなを待たせてはまずいと自分に鞭打って寝床から這い出す。身支度を済ませてみんなの集合する1階のフロアに下りたとき、目に飛び込んできたのは、角突き合わせるミオと千里の姿だった。
「ミオちゃん。今の私をあんまり怒らせないほうが身のためよ……」
「フン。少しくらい魔法が使えるようにニャッたからっていい気にニャるんじゃニャイわよ」
……。今朝はクルルと変身したミオを改めて千里に紹介する予定だったんだが──何やってんだろな、朝っぱらから?
クルルはオドオドしながら火花を散らせる2人を見守っていた。ジュディはなぜか部屋の隅っこにしゃがみ込んで床にのの字を書いている……。マーヤはまだ起きていないのか姿が見えない。俺も寝直そうかな?
階段から降りてきた朋也の姿を認めて、クルルが駆け寄ってくる。
「ああ、よかった、朋也! 2人が大変なことになっちゃったよ~」
「一体何が原因なんだ?」
「えっと……」
戸惑ったように朋也の顔色をうかがう。
「どっちが朋也を起こしに行くかって」
「はあ!?」
もっと早く起きるんだった。ったく、つまらないことで……まるで猿山をめぐるボスザルの主導権争いだな。どうせケンカの種にされるならもっとマシな理由にして欲しいもんだ。
「で、ジュディのやつはあんなとこで何イジケてんだ?」
「それがね、『ボクが代わりに起こしてくるよ!』って言ったら、千里に『あなたは黙ってらっしゃい!』って怒鳴られちゃったんだよ。カワイソーだね」
とばっちりだな……。
にらみ合う両者を見比べる。ミオはあからさまに相手を見下すような視線を千里に向かって投げつけていた。表面上冷静だが、尻尾はオーケストラの指揮棒みたくひっちゃかめっちゃかに振り回してる。対する千里は笑顔を装ってはいたものの、時折頬をヒクヒクと引きつらせ、こめかみには青筋が浮かんでいた。まさに一触即発の状態だ。
まあ、2人が衝突する可能性は予測できないことじゃなかったけれど……。ともかく、成熟形態になったミオと、魔法の力を手に入れた千里がぶつかれば、2人ともただでは済まないだろう。周辺の被害も甚大になると思われた。どうしたものか──