「努力、するよ」
朋也は心臓をドキドキさせながらやっとの思いでそこまで言った。さすがに胸を張ってイエスと言い切る自信はない。今はそれが限界だった。
「そう……」
相変わらず彼の目を正面から見据えながら、ミオは目を細めてかすかに微笑んだ。
「ま、せいぜい頑張って、あたいのハートを射止めてちょうだいね……。それじゃ、bye♥」
そう口にするや否や、彼女は神殿の屋根の上に飛び降りた。朋也がミオのいた見張り台の縁に駆け寄ったときには、もう彼女の姿は見えなくなっていた。
「あ~あ、行っちゃったよ……」
1人塔の上に取り残されてため息を吐く。カイトもそうだったが、とんでもない運動神経だ。前駆形態のときとの身長差を考えれば、この程度の高さからジャンプするのはわけないのかもしれないが。朋也にはとてもここから下まで一息に飛び降りる勇気は出なかった。
半分成り行きとはいえ、ここから飛び降りるのに匹敵する勇気を振り絞って告白に等しい行動に出たのに、彼女はイエスともノーとも、保留の意思すら表示してくれなかった。まあ、面白がるような笑みは否定ではないという印だろうけど……。
ともあれ、これで自分は正式にカイトのライバルに昇格したことになるのかな? モノスフィアでミオの面倒を見てきたことを振りかざそうとしても、エデンの〝ミオ〟にはまるで通用しないことはわかっていた。彼女のハートを射止められるかどうかは、偏に自分の努力次第ってわけだ。からかい半分にあしらわれ続ける今の立場を思うと、途方に暮れざるを得ないけど……それでも、挑戦しがいのある目標には違いないな、と朋也は思った。事件も片付いたことだし──
ああ、でもそうなると、向こうの世界には帰らずにこっちで暮らす決意を固めなくちゃいけないぞ!? 千里たちになんて説明しよう? それに、あいつにフラレた場合に取り返しがつかないかも……。まあ、こっちの世界のほうが俺には性に合ってるかもしれないけど……。
いずれにしても、考えるべきことはたくさんあった。そもそもニンゲン族の自分がエデンに居住することを、神獣キマイラが認めるかどうかもわからない。それに、紅玉をめぐる今回の事件については、神獣に直接確かめなきゃならないことがある。トラとも約束したんだし。今はクヨクヨ悩んでいても仕方ないか。
ミオの去っていった方角を眺めながら、朋也はふと思い出した。
「そういや、あの時もそうだったっけ……俺が軒下にぶら下がってSOSを発してんのに、あいつは知らん顔してどっか遊びに行っちゃったんだ。アハハ!」