朋也は腕組みをして考え込んだ。先ほどの感想ではないが、魔法を駆使できるようになった以上、戦力としては千里のほうが自分を上回っているのは、悔しいけど否めない。
彼女の動機が自分より薄弱だなどと言えないのもわかってる。おそらく彼女の場合、ジュディと離れたくないというのも大きな理由だろうが、それが正当でないと言う権利はない。朋也自身、トラとの約束ばかりでなく、ミオと一緒にいたいことも動機に含まれていたし。ミオと違って、ジュディはもしかしたら、千里が帰るといえば力を失ってもモノスフィアまでついていくかもしれないけれど……。
後はただ、彼女が女の子であり、自分の幼なじみだから心配だ、という理由だけだ。心配なのは変わりなかったが、結局彼女がどうしたいかは彼女自身が決めることだ。
「わかった……。千里が残ってくれるなら俺も心強いよ」
「ありがと♥ 私、頑張るから……」
口にしてみて、朋也は改めて実感した。世界でたった1人のニンゲンであるより、2人の方がどれほど心強いことか……。彼女も同じことを考えていたんだろう。
「ねえ、朋也。私たち、この世界でたった2人のニンゲンなんだよね……」
互いに言葉もなく見つめ合う。朋也は急に胸がドキドキしてきた。今までこんなふうに彼女を意識したことなんてなかった。最近はケンカばかりしてたけど、いなくなってみてどれほど大きな存在だったか気づかされた。彼にとって、千里はお互いのことを一番分かり合える相手だった。もちろん、それはミオとジュディのおかげでもあるけれど。
「あの、ね……私、朋也のこと……」
千里はしばらく頬を紅く染めてうつむいていたが、照れを隠すように頭を掻いた。
「……ううん、やっぱり何でもないや。ともかく、当分一緒なんだから、しっかり頑張ろうね♪」
……。いいムードだと思ったんだけどなあ。けど、彼女も今はまだプライベートを優先する気分には浸れないのだろう。大勢の命が失われたばかりなのだし。朋也もあえて自分からアプローチする気にはなれなかった。
代わりに別の話題を持ち出すことにする。
「そうだ、ペンダントはジュディに返してもらったかい? 千里がいつも身に着けてたやつだから、彼女に預けた方がいいと思って」
「あ、うん。朋也が拾ってくれたんだよね、ありがとう……」
現物を取り出して蓋を開ける。やっぱりセーラー服の襟の下に着けていたようだ。
「……ねえ、ジュディはこのペンダントの中開けて見たかしら?」
「さあ、どうだろ? お前がいない間、肌身離さず持ってはいたけど、別にいじりまわしてはいなかったぞ? どうして?」
妙な質問をするなあと思いながら、朋也は訊き返した。
「ううん、何でも……」
千里は蓋を閉めるとニッコリと微笑んだ。
「もう夜も晩いし、これから具体的にどうするかはまた明日決めましょ? それじゃ、おやすみなさい♪」
「ああ、おやすみ」
手を振って別れる。そういや、もう真夜中をとっくに過ぎてるんだよな。
朋也はもう一度、西に傾き始めた満月を振り仰いだ。
エデンを救う、か……。トラと交わした誓約は、あまりにスケールが大きすぎて自分には身に余ると、一時弱気になりかけていた。でも、千里がそばにいてくれれば、どれほど困難なことにも立ち向かっていけそうな気がする。
実現への道のりが見えてきたら、そのとき改めて自分の方から彼女への気持ちを打ち明けよう……朋也はそう思った──