千里をどう思ってるか、だって? もしかしてジュディのやつ、俺と千里の関係を疑ってるのかな? まあ、そういうことなら話は早いか。
「千里か? もちろん大切な友人だよ。でも、そんなことジュディに説明するまでもないだろ?」
「え? ご主人サマのこと、好きなんじゃないの? 恋人になりたいとか思わない? ご主人サマだってきっと、朋也のこと、まんざらでもないと思うけどな……」
より直截な訊き方をしてくる。彼女がそこまでこだわっているのは、やっぱり千里に対する遠慮があるからだろう。
「う~ん……友達としていつまでも大事にしたいとは思ってるけど、恋人ってのとはちょっと違うな。彼女の方だって同じはずさ」
「本当?」
すがめるような目つきで念を押す。
「ああ。どうしたってんだ、ジュディ? おかしなやつだな」
「そ、そっか……よかった……」
ジュディはあからさまに大きくホッとため息を吐いた。口にしてすぐ、弁解するように頭を掻く。
「アハハ、何言ってんだろねボク」
「そんなに尻尾をブンブン振り回してるところを見ると、俺と千里がただの友達だってわかったのがよっぽど嬉しいのか?」
「え……こ、これは、その……」
赤面しながら再び尻尾を隠すように両手で押さえる。それから、彼女は少しはにかみながら自分の気持ちを打ち明けた。
「あのね……前にボク、ご主人サマが一番で朋也が2番目だって言ったけど……ご主人サマへの〝好き〟と朋也への〝好き〟は、やっぱり比べられないや……」
おや、同列扱いに昇格か……こりゃ光栄なんてもんじゃ済まないな。千里が怒らないといいけど。
「朋也はエデンを救う方法を探すつもりなんだよね? トラやベスの死を無駄にしないために。ボクもついていくよ! 朋也の行く所ならどこへでも! 朋也の役に立ちたいから……」
やっぱりさっきの千里との会話を聞いていたんだな。別に隠すようなことじゃないし、先に彼女に会っていたら告げるつもりだったんだけど。
「ありがとう、ジュディ……。お前がいてくれれば百人力だな。頼りにしてるよ」
「うん!」
いつもの──といっても、怒ってるほうじゃないジュディらしい精一杯の笑顔を見せた後、また普段は滅多に見せないしおらしい調子に戻る。さっき別れたときの千里と何となく表情がかぶって見えたけど。
「朋也。ボク、ね……」
少しモジモジしてから、照れ笑いする。
「ううん、何でもないや……。エヘヘ、何だかとっても元気が出てきちゃった♪」
それからジュディは、外に向き直って眼下に広がるオルドロイの山裾を見渡した。朋也も彼女の隣に並んで欄干から身を乗り出す。
荒涼とした火山性の大地を満月が煌々と照らし出し、青を基調にした幻想的な景観を醸し出していた。遠くモルグル地峡の向こうにはユフラファやビスタの街の灯も見える。左手の東方には黒々とした森林が広がり、月光を浴びてくっきりと浮かび上がった火山地帯と好対照をなしていた。当面──あるいはもしかしたら一生を過ごすことになるかもしれないこの世界の美しい夜景に、朋也はしばし時を忘れて見惚れた。
トラと交わした誓約は、あまりにスケールが大きすぎて自分には身に余ると、一時弱気になりかけていた。でも、いま自分の隣にはこのうえなく頼もしいパートナーがいる。彼女がそばにいてくれさえすれば、どんな困難にも立ち向かっていける気がした。この美しい世界を護りたい……トラや、ベスや、この子のためにも……朋也は改めてそう思うのだった。
ジュディは爪先立ちして両腕を思いきり伸ばして背伸びすると、腹からしぼり出すように大声で叫んだ。
「よおし、明日からも張り切っていくぞ!」