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ミオ: +
ジュディ: +
クルル: +++

 悪いとは思ったが、朋也は彼女が早まった真似をしないようにと、自分のほうを振り向かせ頬を打った。
 クルルはびっくりしてポカンと口を開けていたが、やがて打たれた頬に手をやりじっとうなだれた。もうバカなことをする気は失くしてくれたようだ。
「クルル……そんな投げやりになっちゃいけないよ。俺、本当にすまないと思ってる。お前の願い、叶えてやれなくて……お前のために何もしてやれなくて……いくら謝ったところでどうにもならないけれど……でも、捨てちゃいけない……」
 朋也はこどもを諭すように話しかけた。
「生きていれば、自分ではどんなにあがいてもどうにもならない時ってあるもんだよね。必死に祈っても届かなくて、絶望に打ちひしがれて、何もかも虚しく思えて、誰も信じられなくなって……それでも、希望だけは……それだけは、絶対捨てちゃ駄目だよ……。クルルの思ってることは何1つ間違ってやしないよ。でも……クルルがそれを捨ててしまったら……希望を捨ててしまったら……何も変わらない!! 争いのない、不幸せのない世界なんて、いつまでたっても来やしない! だから……その気持ちだけは失くしちゃいけないよ、クルル……」
「朋也ぁ……」
 クルルは涙目で訴えた。
「痛いよ~~(T_T)」
「あ、ご、ごめんな?」
 朋也はあたふたと頭を下げながら彼女をなだめようとした。しまったな、つい手を出してしまった。そんなに思いきりたたいたつもりはなかったんだけど。
「えっとぉ……じゃあ、お返しに俺のことも引っぱたいていいから」
 クルルは拗ねたこどものように口を尖らせながら言った。
「わかった……。じゃ、目つぶって?」
 朋也は観念してギュッと目を閉じると、右側の頬を差し出した。
 しばらくして返ってきたのは平手ではなく、柔らかくて温かい感触だった。
 びっくりして目を瞬かせながら彼女を見る。クルルは朋也の顔を見上げてにっこり微笑んだ。普段から赤い目がさらに真っ赤になっていたけど。
「ありがとう、朋也……。クルル、捨てないよ。どんなことがあっても挫けないよ。でも……今だけちょっと胸を貸してね……」
 声を詰まらせながらそこまで言うと、彼の胸にしがみついて大声を上げて泣き始める。
「わああああっ!」
 今は思う存分泣かせてやろう。ほつれた髪を優しくなでてやりながら、朋也は思った。
 彼女の痛み、彼女の苦しみをほんの少しでも引き受けてあげられたらいいのに。もう二度とこんな悲劇が起こらないようにしなくちゃ……そして、彼女の信じる世界が1日も早く実現するよう、出来る限りのことを尽くさなきゃな……。この子のためにも──



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