5人とも心配だった。逆に言えば、彼女たちのうちの誰か1人を贔屓にする気にはなれなかった。朋也は結局誰のことも捜そうとせず、1人で神殿の屋上に上がった。
嘘だった。本当は自分が誰とも顔を合わせたくなかったにすぎない。たぶん、みんなも同じ気持ちだろう。
月明かりに照らされた荒涼とした大地に目をやる。涙が込み上げてきた。
トラの願いも、ベスの野心も、結局遂げられることはなかった。紅玉のアニムスもその守護神獣も再生することなく、事件は幕を閉じた。2人は死に、犠牲になったユフラファ村のウサギたちも還ってはこない。こんなのあまりに理不尽じゃないか……。
拳を握りしめながら、彼は泣いた。
一体誰の所為なんだ!? トラの信頼を裏切ったのは、ベスの威厳を踏みにじったのは、そもそも神鳥を殺し、紅玉の封印を解いてこの素晴らしい世界を破滅の危機に陥れようとしたのは、誰なんだ!? 答えは最初から出ていた。そう、朋也自身の一族、ニンゲンだ──
手すりに寄りかかりながら、朋也はやり場のない怒りに肩を震わせ、涙がとめどなくあふれ続けるに任せた。
不意に後ろでバサバサッという羽音が聞こえた。
低い女性の声が訊く。
「なぜお前が泣く?」