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「きゃあああっ!!」
「ご主人サマッ!?」
 ジュディが叫びながら、何とか神呪の戒めを振りほどこうともがく。だが、彼女の必死の努力も空しく、千里は魔法の鎖に囚われ、崖上の2人のもとに引き揚げられていった。
 朋也はやっと拘束から解かれ、崖下に駆け寄った。
「カイトッ! 千里をどうするつもりだっ!?」
 カイトが片手を上げると、背後に空間の歪みが出現した。クレメインの森の外れで襲ってきた〝サンエン〟が出入りしていたものと同じやつだ。
「朋也。これまでの君の貢献に対するお返しといったらなんだが、君たちに猶予期間をあげるよ。この娘を無事に取り戻したかったら、レゴラスの神殿まで来たまえ。半月後に今度は皆既日蝕がある。日蝕の始まる時刻が期限だ。それじゃ、アディオス!」
 そう言い残すと、カイトとリルケは千里を伴ったまま次元の穴に潜っていった。
「ご主人サマァーーーッ!!!」
 ジュディは悲痛な叫び声を上げながら、崖を這い上がろうと岩を掴んだ。だが、その時には既に異次元トンネルの入口は閉じ、何事もなかったかのように青空が広がっていた……。
 その場にくずおれ、肩を震わせる。
「そんな……何で……何でなんだよっ!? やっとまた会えたばっかりだっていうのに……」
 彼女のそばに立ち尽くしたまま、朋也は拳を握りしめた。せっかく無事に救出できたと思ったのに、二度も千里を誘拐される羽目になろうとは……。しかも、今度の誘拐犯も顔見知りの近所のネコ、カイトだなんて……。
 ジュディはようやく立ち上がると、ミオに向かって噛み付くように訊いた。
「おい、ミオッ!! あいつ、お前の知り合いなんだろ!? なんでご主人サマがあのキザネコ野郎に誘拐されなきゃならないんだよっ!?」
 ミオは顔をしかめて肩をすくめた。
「さあ……あたいに訊かれても困るわよ。あたいはあたい、カイトはカイト、彼の行動の動機ニャンていちいちあたいは知らニャイし、責任だって持てニャイわ。それより……」
 そこで彼女はマーヤを振り返った。
「レゴラスといえば神獣キマイラの居城よ。あたいより誰かさんに尋ねた方が早いんじゃニャくて?」
「何だって!? まさか……神獣が実は黒幕だったっていうのか!?」
 朋也も同じく神獣の部下である妖精を振り向く。
 自分でそう口にしてみて、朋也はやっと、今回のオルドロイの一件が終わってからも解けずに残っていた疑問──マーヤの挙動、リルケの妨害、ベスやトラの発言の意味が、次第に1つのパズルのように組み合わせれ始めた気がしてきた。
 そういや、聞き違いだと思ってたが、ベスはカイトに嵌められたとか言ってたっけ? もしかして、事件は片付いたどころか、今まさに緒に就いたばかりなのかもしれない……。
 ミオの指摘を受け、ジュディはマーヤに食ってかかった。
「おい、どういうことなんだ、マーヤッ!?」
 マーヤは一同の顔を見回しながら、しどろもどろに答えた。
「あたし……あたし……知らないよぉ……」
「くっ……マーヤッ! お前はキマイラの遣いなんだろ!? どうして知らないわけがあるんだよっ!! 目の前でご主人サマがさらわれたってのに、あくまでしらばくれるつもりなのか!? それともお前、最初っからボクたちを騙すつもりだったのか!? そういうやつだったのか!?」
 ジュディは目をむき出してマーヤに迫る。怯えて首を振るばかりの彼女に舌打ちすると、今度は朋也を振り返った。
「おい、朋也も何とか言えよ!」
「お願い、朋也ぁ……信じてよぉ……」
 マーヤは目に涙をいっぱい溜めながら哀願した。


*選択肢    説明してくれ    マーヤを信じる

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