「いいよ」
朋也は苦笑しながら彼女に神樹のフルートを差し出した。
「やったあ♪」
クルルは嬉々として朋也から神樹のフルートを受け取ると、ながめつすがめつする。遠眼鏡じゃないんだけど……。
「じゃあ、これから吹くから、ちゃんと聴いててね!」
なんだか幼稚園か小学校の演奏会に参観しに来た父兄のような気分だ。目的わかってんのかな? いま説明したばかりなのに。
クルルはちょっとかっこつけて1小節分のメロディを奏でた。音楽の成績は……まあ、よくできましたってとこか。
クレメインの神木前でマーヤが呼んだときと同じように、葉擦れの音がサラサラと聞こえたかと思うと、目の前に緑の光が集まり始める。やがて姿を現したのは、豊かな緑の髪を持つ知的な目をした美しい女性──そう、フィルそっくりの……ていうか、本人じゃないか!?
「ご無沙汰です。朋也さん、皆さん。お元気でしたか?」
「あ、あれ!? フィル!? だって、ここはクレメインじゃなくてエルロンの森じゃ──」
「私たちは森と森の間でもテレポートが可能ですから。今回はエルロンの精に無理を言って交代してもらったのです。私なら皆さんの事情をよく存じてますし、お力にもなりたかったので……」
びっくりして目を瞬かせている朋也にそこまで説明してから、フィルは少し不安げに尋ねた。
「あの……ご迷惑だったでしょうか?」