朋也は結局千里とクルルのを1個ずつ、ミオのを2個いただくことにした。魚系が好きだったのは事実だし、彼女のは少食の本人に合わせて若干小ぶりだったこともある。もっとも、公正に……とはいっても、わざわざミオが作ってくれたと聞いて、つい手心を加えて彼女の評価に加点してしまったのは否めない。
「みんなには悪いけど……」
2周目でミオのタラコを手に取ったとき、彼女は尻尾を高々と掲げ、目を細めてにんまりとした。エデンに来てからは本当の感情をなかなか表に出そうとしなくなった彼女が、こんなに素直に喜びを表現してくれたのは初めてかもしれない。やっぱり彼女のを選んでよかった。それにしても……いつも自分が食事を用意してやった(といっても、せいぜい缶詰のブレンドや自分用の魚をさばいてやるとこまでだったが)ミオが、俺のためにお結びを握ってくれるなんて──と思うと、つい感無量の気分に浸ってしまう朋也だった。
千里も、ミオが相手じゃしょうがないと首をすくめる。クルルは少ししょんぼり顔になったけど。ごめん、2人とも。でも、2人の分を担当したフィルがせっせと持ち上げてくれたので(彼女の事細かな寸評は、どっちかといいうと化学組成の分析みたいだったけど……)彼女たちも機嫌を戻してくれた。
食事が済んで一服しているとき、朋也はふと思い出した。そういえば、フィルは妖精の隠れ里のことは知ってるのかな? エルロンの森の精には訊いても口チャックだから無駄だってブブは言ってたけど、彼女なら教えてくれるかも。そう思った朋也は試しに尋ねてみた。
「ねえ、フィル。無理に答えてくれなくていいんだけど、隠れ里の噂があるの、知ってる?」
少し間を置いてから答える。
「ごめんなさい、彼女たちとの誓約でお答えできないことになっているもので……」
……。それって思いきりバラシてるじゃん。
「他でもない朋也さんだからお教えするんですけどね。一応、他の住民の皆さんには内密にということで」
「ふみゅ、情報屋ニャら高く買ってくれるかもニャ~♪」
ミオがニヤリとして頭の中で算盤を弾く。
「こら、ミオ! もちろん誰にも言わないさ。ただ、ちょっとマーヤのことが気になったもんでね……」
「彼女のことは、注意を払っておきます。エルロンの精にも伝えておきますわ」
フィルがそう言ってくれるなら安心か。何せ2人は親友の間柄なんだもんな。
一行はそれから日暮れまで歩き通し、行程の3分の2を過ぎたポイントで夜を明かすことになった。
歩き尽くめで疲れていたため、みなあっという間に眠りに就く。千里は、自分が火の番をすると言い出して見張りについた。ジュディのことを考えるとなかなか寝付かれないのだろう。朋也は適当な時間に交代するから起こすように言うと、横になった──