朋也は結局千里とクルルのを1個ずつ、ミオのを2個いただくことにした。魚系が好きだったのは事実だし、彼女のは少食の本人に合わせて若干小ぶりだったこともある。もっとも、公正に……とはいっても、わざわざミオが作ってくれたと聞いて、つい手心を加えて彼女の評価に加点してしまったのは否めない。
「みんなには悪いけど……」
2周目でミオのタラコを手に取ったとき、彼女は尻尾を高々と掲げ、目を細めてにんまりとした。エデンに来てからは本当の感情をなかなか表に出そうとしなくなった彼女が、こんなに素直に喜びを表現してくれたのは初めてかもしれない。やっぱり彼女のを選んでよかった。それにしても、いつも自分が食事を用意してやった(といっても、せいぜい缶詰のブレンドや自分用の魚をさばいてやるとこまでだったが)ミオが、俺のためにお結びを握ってくれるなんて──と思うと、つい感無量の気分に浸ってしまう朋也だった。
千里も、ミオが相手じゃしょうがないと首をすくめる。クルルは少ししょんぼり顔になったけど。ごめん、2人とも。残りは3時のおやつの頃合を見計らって食べる努力をするから。夏場じゃないから平気だろ、たぶん……。
そんなこんなで食事も片付いたところで、ミオが妙案を思いついた。
彼女のアイディアとは、ビスタで変装に使ったウィッグの余りを、道に面した木々の幹にジェルで貼り付けて目印を作っていくというものだ。そうすれば、方向感覚を狂わせてループに誘導するやり方は通用しなくなる。さすがミオ。何かに活用するときもあるだろうと、ウィッグを捨てないでおいて正解だった。ゴミを次々捨てている気もしたけど、ジェルも含めて生分解性なので森の負担にはならないはずだし、大目に見てもらおう……。
作戦は成功だった。目論みどおり、しばらく歩くうち、目の高さに〝黒髪を生やした木〟(髪というよりヒゲだな……ちょっと離れて見るとかなりブキミだ)が前方に現れた。エルロンの樹の精も、道上の目印をせっせと引っぺがして回収するところまでは手が回らなかったとみえる。
一行はいったん一つ前の分かれ道まで引き返して違うほうを選んだ。少し進んでいくと、また別のウィッグ付きの木が見えてきた。
「あれ、おかしいな? どうなってんだろ!?」
朋也は首をひねった。またたぶらかされてるのかな?
「待って。この木、さっきは確か道の右側にあったはずよ!」
千里が鋭く指摘する。
ミオが木の手前の辺りの下生えを探ってみる。はたして、一部に根の生えていないカモフラージュ用の葉叢が見つかった。どかしてみると、木の右側に一周前に通った道が現れる。何となく原始的な手だな……。ひょっとして、エルロンの樹の精も、なんとかして彼らの目を誤魔化そうと涙ぐましい努力をしてるのかなあ。彼女には申し訳ないと思ったが、これで樹の精が一行を遠ざけようとしている方向が解った。すなわち木のさらに右側、南のほうに隠れ里があるに違いない。
相談のうえ、朋也たちは右側の道を少し進んでから徐に道を逸れ、森の間に分け入っていった。しばらく下藪を踏み越えていくと、ようやく通ったことのない新たな道に出くわした。
見つけたぞ、これこそ妖精の隠れ里への入り口に違いない!