戻る



ミオ: --
千里: ++
クルル: -

 朋也は結局ミオとクルルのを1個ずつ、千里のを2個いただくことにした。客観的評価となると、彼女に分があるのは否めない。はたしておにぎりと呼べるかどうかも怪しいクルルのは言うまでもなかったが、ミオもいくら器用だといっても千里の腕には太刀打ちできなかった。
 具の梅干はダミーなだけに何だかジャムっぽい気もしたが、カツブシを加えて和風の味付けを工夫してあり、家庭の味がした。おにぎり1つによくそこまで凝るなあ。食べきるのがもったいなく思えてくる。
「みんなには悪いけど……」
 2周目で朋也が3人の視線を浴びつつ千里の昆布を手に取ると、選に漏れた他の2人はあからさまにがっくり肩を落とした。
「まあ、そう気を落とすなよ。2人とももう少し練習すれば千里のレベルに近づけるさ♪」
「ふみゅ~~……」
 膨れっ面をして自作品を見つめていたミオは、何を思ったのかそれにかぶりついた。
「おいおい!」
「せっかくあんたのために作ったのに、食べニャイんだったらもうやらニャイもん!」
 あ~あ、ヤケ食いするなんて。そうなると、最後にポツンと1つ残されたクルルの分がいかにも哀れを誘う。といってもこっちは結構サイズも大き目で、本人の手には負えそうになかった。仕方なく、朋也は5つ目に挑戦することにした……。お腹がパンパンでベルトを穴2つ分緩めてもズボンが落ちない……これからまだ歩かなきゃいけないのに。ミオは一段と不機嫌になるし……。
 そんなこんなで食事も片付いたところで、ミオが妙案を思いついた。
 彼女のアイディアとは、ビスタで変装に使ったウィッグの余りを、道に面した木々の幹にジェルで貼り付けて目印を作っていくというものだ。そうすれば、方向感覚を狂わせてループに誘導するやり方は通用しなくなる。さすがミオ。何かに活用するときもあるだろうと、ウィッグを捨てないでおいて正解だった。ゴミを次々捨てている気もしたけど、ジェルも含めて生分解性なので森の負担にはならないはずだし、大目に見てもらおう……。
 作戦は成功だった。目論みどおり、しばらく歩くうち、目の高さに〝黒髪を生やした木〟(髪というよりヒゲだな……ちょっと離れて見るとかなりブキミだ)が前方に現れた。エルロンの樹の精も、道上の目印をせっせと引っぺがして回収するところまでは手が回らなかったとみえる。
 一行はいったん一つ前の分かれ道まで引き返して違うほうを選んだ。少し進んでいくと、また別のウィッグ付きの木が見えてきた。
「あれ、おかしいな? どうなってんだろ!?」
 朋也は首をひねった。またたぶらかされてるのかな?
「待って。この木、さっきは確か道の右側にあったはずよ!」
 千里が鋭く指摘する。
 ミオが木の手前の辺りの下生えを探ってみる。はたして、一部に根の生えていないカモフラージュ用の葉叢が見つかった。どかしてみると、木の右側に一周前に通った道が現れる。何となく原始的な手だな……。ひょっとして、エルロンの樹の精も、なんとかして彼らの目を誤魔化そうと涙ぐましい努力をしてるのかなあ。彼女には申し訳ないと思ったが、これで樹の精が一行を遠ざけようとしている方向が解った。すなわち木のさらに右側、南のほうに隠れ里があるに違いない。
 相談のうえ、朋也たちは右側の道を少し進んでから徐に道を逸れ、森の間に分け入っていった。しばらく下藪を踏み越えていくと、ようやく通ったことのない新たな道に出くわした。
 見つけたぞ、これこそ妖精の隠れ里への入り口に違いない!



次ページへ

ページのトップへ戻る