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ミオ: -
千里: -
クルル: ++

 朋也は結局ミオと千里のを1個ずつ、クルルのを2個いただくことにした。おにぎりの完成度の観点で厳正なる評価を下せば、彼女が不利なのは否めなかったが、それでも彼女の〝作品〟は3人の中でいちばん手間ひまがかかっているのがひしひしと伝わってくる。ていうか、米の一粒一粒が自己主張してるみたいだ……。本人も自分の分を口に運ぶのはそっちのけで、息まで詰めて朋也の手元に注目してるし。そうなると、やっぱり可哀相な気がしてきて、やっぱり他の2人には譲ってもらうことにしたのだった。
 ザワークラウトのおにぎりも食べてみると案外悪くない。この間注意した反動で味付けがちょっと濃い目だったけど。
「みんなには悪いけど……」
 2周目で朋也が3人の視線を浴びつつクルルのピクルスを手に取ると、千里は肩をすくめてまあしょうがないという顔をしたが、ミオの膨れっ面は収まらなかった。何を思ったのか、いきなり自作の残りにかぶりつく。
「ふみゅ~、せっかくあんたのために作ったのに、食べニャイんだったらもうやらニャイもん!」
 あ~あ、ヤケ食いするなんて。そうなると、最後にポツンと1つ残された千里の分が如何にも哀れを誘う……。
「千里、半分コずつでもいい?」
「了承」
「あたいのだけ1個なんてあんまりだニャ! こうニャッたら千里のおにぎりで咽喉詰まらせてお腹破裂して死んでやるニャ~!」
 朋也の手から奪取しようとつかみかかる。だから3つ目やめときゃよかったのに……。
「死んでもいいけど化けて出ないでね~」
「ニャンですってぇ!」
 また始まった。消化に悪いぞ、お前ら。こうして朋也の胃袋に収まったのは計4.5個となった。ベルトの穴を1つ分緩めたけど、まだ鳩尾の辺りが苦しくてモヤモヤする。これからまだまだ歩かなきゃいけないのに……。
 そんなこんなで食事も片付いたところで、ミオが妙案を思いついた。
 彼女のアイディアとは、ビスタで変装に使ったウィッグの余りを、道に面した木々の幹にジェルで貼り付けて目印を作っていくというものだ。そうすれば、方向感覚を狂わせてループに誘導するやり方は通用しなくなる。さすがミオ。何かに活用するときもあるだろうと、ウィッグを捨てないでおいて正解だった。ゴミを次々捨てている気もしたけど、ジェルも含めて生分解性なので森の負担にはならないはずだし、大目に見てもらおう……。
 作戦は成功だった。目論みどおり、しばらく歩くうち、目の高さに〝黒髪を生やした木〟(髪というよりヒゲだな……ちょっと離れて見るとかなりブキミだ)が前方に現れた。エルロンの樹の精も、道上の目印をせっせと引っぺがして回収するところまでは手が回らなかったとみえる。
 一行はいったん一つ前の分かれ道まで引き返して違うほうを選んだ。少し進んでいくと、また別のウィッグ付きの木が見えてきた。
「あれ、おかしいな? どうなってんだろ!?」
 朋也は首をひねった。またたぶらかされてるのかな?
「待って。この木、さっきは確か道の右側にあったはずよ!」
 千里が鋭く指摘する。
 ミオが木の手前の辺りの下生えを探ってみる。はたして、一部に根の生えていないカモフラージュ用の葉叢が見つかった。どかしてみると、木の右側に一周前に通った道が現れる。何となく原始的な手だな……。ひょっとして、エルロンの樹の精も、なんとかして彼らの目を誤魔化そうと涙ぐましい努力をしてるのかなあ。彼女には申し訳ないと思ったが、これで樹の精が一行を遠ざけようとしている方向が解った。すなわち木のさらに右側、南のほうに隠れ里があるに違いない。
 相談のうえ、朋也たちは右側の道を少し進んでから徐に道を逸れ、森の間に分け入っていった。しばらく下藪を踏み越えていくと、ようやく通ったことのない新たな道に出くわした。
 見つけたぞ、これこそ妖精の隠れ里への入り口に違いない!



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