彼女と同じ不安と困惑を覚えながら、朋也は自分自身にも言い聞かせるように首を振った。
「いや……そんなわけないよ、きっと……。このコンパクトだってマーヤのとは限らないんだし。妖精はみんな持ってるって彼女言ってたからな」
それから、千里を励ますように優しく肩をたたく。
「大丈夫だよ。あいつは俺たちとケンカしたくらいで人生を悲嘆したりなんかしないって」
そうだ……マーヤがそんな簡単に自分の命を絶ったりするわけがない。何しろこれまでたくさんの動物たちを介抱してきたんだし、命の重みは彼女がいちばんよくわかってるよな……。
それでも気になった朋也は、あらためてその墓に目を寄せてみた。何かの文字が掘ってある。エデンの文字は種族を問わず共通で、シンプルなキャラクターセットから成っていた。だが、翻訳エージェントは読み書きまでサポートしておらず、朋也にはまだ読むことができなかった。ミオに場所を譲って目を通してもらう。
「#9109557──それだけね」
?? 戒名でも墓碑銘でもない、数字の羅列? お墓にしてはやっぱりおかしいと朋也は思った。まあ、ここにマーヤが眠っている可能性は薄れたとはいえそうだ。
腕組みをしながら謎の墓をじっと見つめていたとき、後ろのほうで誰かがはっと息を飲むのが聞こえた。
振り返ると、入口の近くに妖精がいた。しかも、あの羽の模様はもしや!? 妖精の顔が見分けがつかないほどよく似ているということは、ビスタのセンターに寄ったときに知ってびっくりしたけど、いまの妖精は顔立ち以外の特徴も含め、マーヤにそっくりだった。少し離れていたし、あっという間に泉の前に通じている別の径を曲がって見えなくなってしまったので、確かめられなかったが……。
4人は顔を見合わせてうなずくと、その妖精が飛び去っていった方角に進んでいった。細い径を幾度か曲がると、緑の生垣のようなものが正面に出現した。それは道の左右に伸びて、前方の空間を緩やかなカーブを描いて取り巻いている。遠くからでは木立の中に溶け込んでほとんどわからない、巧みなカモフラージュだった。
近寄ってみると、困ったことに入口がどこにも見当たらない。まあ、高さは2mもないので乗り越えるのはそれほど難しくないが。ミオとクルルはヒト族2人の前で軽々と障害を飛び越した。朋也もネコスキルを使って上に登り、千里に手を貸してやる。先行した彼女たちの隣に並んで、2人は里の中を見渡した──