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 エルロンの森深く、学校の校庭ほどもない小さな一角に忽然と出現した異世界──。キノコの形をした小ぢんまりした家が並ぶ隠れ里は、童話に出てくる小人の村そのものだった。屋外にいた何人かの妖精たちが、朋也たちに気づいて近寄ってきた。不思議なことに、秘密の隠れ家に突然大きな異種族が侵入してきても、それほど驚いた様子がない。
「あら? もしかしてあなたたち──」
 中の1人がそこまで言いかけて後ろを振り返る。
「マーヤーッ! ちょっと、あなたの言ってたニンゲンたちがお目見えしたわよーっ!」
 しばらく待つが、反応がないため、彼女たちが口々に叫ぶ。
「ほら、マーヤったら」
「なに恥ずかしがってんのよぉ」
 ビスタで会った正規の職務についている妖精たちはいそいそと勤勉に働き回っていたが、マーヤと違い感情表現に乏しいように見えた。それに比べると、この隠れ里の妖精たちの表情やジェスチャーはマーヤに近い印象がある。
「マーヤ! いるのか!? 頼む、出てきてくれ!」
 彼女たちに代わって今度は朋也自身が叫んだ。
「マーヤちゃん! 私よ、千里よ!! お願い、出てきて!! 私……私……どうしてもあなたに謝りたいことがあるの……」
 千里が祈るように手を胸の前で合わせて叫ぶ。
「ねえ、マーヤ! みんなあなたに会いに来たんだよっ! ちょっとだけでも顔を見せてくれない?」
 クルルも一緒になって呼びかけた。ミオは1人で気のなさそうな顔してたけど。
 やっとキノコの家の1つのドアがゆっくり開き、彼女がおずおずと顔を出した。
「朋也ぁ……みんなぁ……えっとぉ~、げ、元気ぃ~?」
 モジモジしながらささやくような声で挨拶する。
 千里は彼女のもとに走り寄ると、いきなり抱きついた。
「ごめんなさい、マーヤちゃん!! あなたのことを疑った私がバカだったわ! 許して……」
「ちょ、ちょっとどうしたのよぉ、千里ったらぁー? おかしな子ねぇ~」
 頬を摺り寄せて泣きじゃくる千里の頭をなでながら、戸惑ったように訊く。彼女に代わって朋也が答えてやった。
「ここに来る途中お墓があって……てっきり、その……マーヤのかと……」
 マーヤはポカンとして朋也の顔を見たが、ようやく合点がいったというようにうなずいた。
「ああ、あれねぇ~。うん、あたしのだよぉー……」
「え??」
 今度は朋也のほうが大いに戸惑う番だった。
 千里をなだめながら、マーヤはポツリポツリと話し始めた。
「……ここはねぇ、神獣様の下僕としてただ定められた務めを果たすのに疲れた妖精たちが暮らす隠れ里なのぉー。みんな、他の生きものたちと同じように自由な生き方を選んで、ここでひっそりと肩を寄せ合って暮らしているのよぉ。あたしも、神獣様の遣いは廃業。朋也たちを傷つけるようなことはもうしたくないからぁ……。だから、いままでのあたしにはバイバイしたのぉ……」
 要するにあの墓は、過去の自分と訣別する彼女の意思表示だったのだ。そこまで俺たちのために……。
「……マーヤ、疑ったりして本当にすまなかった。こんなこと頼めた義理じゃないけど……もし、君さえよければ、また俺たちと一緒に来てくれないかな? せっかく静かな生活を手に入れたところなのに、無理を言うようで気が引けるけど……」
「私からもお願い……」
「クルルもまたマーヤと一緒に旅ができたら嬉しいよっ♪」
「あたいは別にどうでもいいけどね」
「こら、ミオ!」
 しばらく沈黙した後、マーヤは朋也の顔を正面から見据えて尋ねた。
「……あたしに来て欲しいのぉ? どうしてぇ?」


*選択肢    便利だから    君がいないと寂しい・・

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