「千里。お前の気持ちはよくわかるけど──」
　その先の言葉をミオが引き継ぐ。
「ニャイもんはニャイんだからしょうがニャイでしょ？　千里、ポートグレーに行って、仮に船を見つけたとして、あんたその後どうするつもりニャの？　盗むか乗っ取りでもするつもり！？　あのね～、レゴラスは手漕ぎのボートで行けるところじゃニャイのよ？　船で半日かかる大海のまっただ中ニャのよ？　あんた、船の操縦できんの！？　海図読めんの！？　あたいは土左衛門にニャるのはゴメンだからね。当日までにたどり着く方法がまったくニャイんだったらともかく、間に合うんだからそれで我慢するしかニャイでしょーが！？」
　おいおい、そんなに千里を責めるなよ。まあ、ミオは自分が憎まれ役を買ってくれたんだろうけど……。
「私もそう思います。ここからポートグレーまで最速でも４日かかります。でも、砂漠を踏破するとなればそれ相応の装備が必要になりますし、ジュディさんを奪還する時のことも考慮しておく必要があるでしょう。装備品やアイテムの補充は、シエナで済ませるのがより確実です。結局、ポートグレーに到着するまでに最低１週間は費やさざるを得ないでしょう。であれば、不確実でリスクの高い手段に訴えて多少の時間の短縮を図るより、その時間を有効に活用したほうがよろしいのでは？」
「うん。クルルもミオやフィルに賛成だよ。クルルたちが神獣のところへ行くのは、ジュディを取り返すためだし、千里も朋也もニンゲンだけど、何も悪いことしてないよね。でも、街の人たちはどう思うかなあ？　クルルたちはもちろん、２人がとってもいい人たちだって解ってるけどさ、みんなにも誤解して欲しくないと思うんだ……」
「……うん、そうだね。ゴメン、みんな。それに、ありがと……ミオちゃんも、クルルちゃんも、フィル……あ、フィルに〝ちゃん〟付けはヘンかなあ？　でも、付けないと差別だよねぇ」
「フフ……別にどちらでも構いませんよ」
　場の雰囲気がだいぶ和んだな。
「じゃあ、フィルちゃんも。それと、朋也も……」
　俺だけ呼び捨て……。
「千里。お前に心配するなって言っても無理なのはわかってるよ。お前が誘拐されてる間のジュディだって、今のお前とおんなじ具合だったからな。『早く助けなきゃご主人サマが！』ってそればっかり」
「あんたがいない間、ホントにお守が大変だったんだから」
　ミオも歩調を合わせる。
「ともかく、ジュディを確実に助けることを最優先に行動しよう。な？」
「ええ」
　千里はすっきりした笑顔で返事をしてくれた。もっとも、朋也にとって心配の種だったのは、ジュディと交換に要求されている千里の身柄をどうすれば引き渡さずに済むかだった。千里のことだから、いざとなったら自分たちの言うことに耳なんて貸さずに身を捧げるに決まってるし……。カイトたちやキマイラと話し合いで解決がつけばいいんだけど……。
　そういうわけで、一行はシエナの街を探索しながら、入念に準備を整えることにした。バッファを見て１０日後にポートグレーに入ることにし、北廻りのルートを通るとすると、逆算でシエナを発つのは３日後ということになる。３日間のアクション･プランは、優先順に、有用な装備（出来れば最強品）の調達とアイテムの補充、キマイラとカイト、リルケ、レゴラス神殿に関する情報の収集、各自のスキルアップと息抜き。
　余裕ができたとはいえ、今日はもう残り少なかったため、今夜の宿を探しつつ、３つの宿題を兼ねて街をブラブラと見て回ることにする。
　どこかにいいアイテムを置いている店はないかと──ミオ曰く、本当に使える代物はやっぱり裏通りのアヤシイ店でなきゃ手に入らないということだが──ながめていると、奇妙な看板が目に入った。「緑の相談窓口」と書いてある。植木屋さんかな？
　試しにドアを潜ってみる。ガランとした一室の中央にカウンターがあり、上にはサボテンの鉢が１つ鎮座していた。他には何もない。
「コンニチハ」
　誰もいないのに声がする……。人が隠れるようなところも、他にスピーカーを隠す場所もない。まさか……。
「ゴ用件ヲ承リマスガ？」
　サボテンが喋った！？(-O-;;;;
「ご無沙汰しています、サボサボさん。クレメインのフィルです」
　名前まで付いている。でも、サボサボじゃわざわざ名付ける意味なさそうな……。ていうか、フィルの知り合いなの！？
「コレハコレハ、ふぃるサンデシタカ。オ久シ振リデス」
　話を聞くと、シエナより東側には神木に相当する大木を擁する森がまったくないため、サボサボ氏が東部一帯の樹族を代表するメッセンジャーとしてシエナに派遣され、ここに領事館を構えているとか。樹の精の格好をしていないのは、リソースを最小限にするため、対話機能のみ与えられたということらしい。フィルにもそういうとこあるけど、樹族ってホントに合理主義なんだな……。バイトのリス族の女の子に来てもらって、昼休みに日向に出したり水やりしてもらってるとも聞いた。サボテンといえど、しゃべっていると結構エネルギーを消耗するものらしい。
　フィルがサボサボ氏（中性的な声だけど、女性なんだろうか？）と世間話に花を咲かせている間、残りのみんなはただ呆気に取られていた。エデン生まれのクルルにとっても、しゃべる鉢植えサボテンの存在は予想外だったようだ。
「もうサボテン苛められないね」
　千里がこっそり耳打ちする。普通苛めないだろ。
　砂漠に棲むモンスターに関する情報などを仕入れた後、朋也たちはサボサボ氏に別れを告げ緑の相談窓口を後にした。(注)

(注）：ゲーム中では以後フィールド上の砂漠のサボテンの生えたところで神樹のフルートを吹くとサボサボを呼び出し、休んだりアイテムを購入できる。フィルがパーティーにいない場合、サボサボの正体は不明のまま。