それから一行は、時折何かめぼしいものはないかと店をのぞきながら、市街の中心部に向かって大通りをゆっくり歩いていった。しばらく進んだところで、マーヤがと大声を上げる。
「あ~~っ!? あの店は、『シエナ食べ歩き名店ガイド百撰』に出てた3ツ星の喫茶店だわぁ~♪ ハーブティーの品揃えが豊富で味も格別なんだってぇ~♥ ねぇ~、おやつの時間も過ぎたしぃ、ちょっと寄ってかなぁ~い? あたし、咽喉渇いちゃったぁ~」
「そうだな、休憩にするか」
「あら、こんニャところで油売ってていいの?」
ミオが口を尖らせる。朋也が自分以外の女の子に甘い顔をすると、途端に虫の居所が悪くなるんだから……。
「まあ、ここらで一息入れてもいいんじゃないか?」
「こういう若い子が入り浸るようニャ小ぎれいな店じゃ、たいした情報は手に入らニャイもんだけどね」
「ボクは別にいいよ」
ジュディはさっきウーの社で時間を取った手前、遠慮していると見える。
「ハーブティーにはビスケットがよく合うんだよね♪」
いや、飲食店に持ち込んで食うのはいかんと思うが……。
ミオも強硬に異を唱えることはしなかったので、みんなでドアをくぐることにする。洒落た店内は主に若い女の子たちでにぎわっていた。エデンの女性は耳やら尻尾やらオプションが付いてる以外はほとんどニンゲンと変わりないので、向こうの喫茶店の雰囲気に比べそれほど違和感はない。コスプレ喫茶然とはしてたけど。
効能を含め詳しい説明の書かれたメニューを見ながら、クルルのアドバイスも受けつつ適当に選ぶ。
美味しいカモミールティーをご馳走になり、一服していると、甲高い早口の声とともに3人連れの妖精が店に入ってきた。少し緊張してマーヤに小声でささやく。
「おい、大丈夫かな、俺たち?」
「心配しなくていいわよぉ。あの子たちはCクラスだから、オルドロイ関係の話なんて聞いちゃいないわぁ。それに、今はたぶん非番で息抜きにきただけよぉー」
彼女によれば、妖精のクラスは羽の模様や色だけで判別できるらしい。業務成績に応じて付けられる彼女たちの等級は、バイオリズムに作用して羽ばかりでなく体格まで変化させるという。マーヤの羽のパターンは、キマイラの勅命を受けて朋也たちと一緒に旅をしているうちに、すっかりオリジナルになってしまったみたいだが。
警戒の必要はないとはいえ、朋也は3人の会話に耳をすませた。マーヤの言ったとおり、休日モードですっかり寛いでいる。そして、3人ともやっぱり蜂蜜入りのお茶を頼んだ……。
「──ねえ、ところで聞いた? エルロンの森の隠れ里が自分たちから所在を公開したって話……」
「知ってる知ってる。ディーヴァ様、森ごと焼き払ってやるってカンカンになってるってさ」
「こわ~~」
本当におっかないやつだな。いくらキマイラの代行といっても、まさかそんなことまではできないだろうけど……。
「ディーヴァ様やキマイラ様に歯向かうなんて、連中もバカだよね~」
「ちょっと、あんたたち──ムグ」
ムッときたマーヤが抗議しかけたので、あわてて口を塞ぐ。
「でもさ……あそこで作ってた薬用キノコの効果って、フューリー製のバイオ製薬より効き目高いっていうよ。おまけに安いし……」
「それじゃ、どっちが市民の役に立ってるかわかんないよねぇ……」
「しっ! そんなことしゃべったら誰に聞かれてるかも──!?」
そこでこっちと目が合う。途端に彼女たちが縮み上がったのがわかる。声を落としてささやき合う。
「あ、あの子……あんな羽、見たことないよ! B? A?」
「まさか、フューリーから直々に派遣された特務妖精だったりとか……身体小さいけど」
「どうしよ~!?」
マーヤが目で訴えてきたので手を離してやる。彼女はいかにも偉そうな素振りでその新米の妖精たちのテーブルに近づいていくと、3人の顔を交互に見た。
「あ、あの~、い、今のはほんの冗談なんです。決してディーヴァ様を非難するつもりなんて──」
マーヤはいきなりテーブルの上をどんとたたいた。3人は「ひっ」と声を立てて震え上がる。
「い~い、あなたたちぃ? 言いたいことはちゃんとはっきり言わなくちゃ駄目よぉ~!? おかしいことはおかしい、間違ってることは間違ってる、ってねぇ♪ これからの時代はねぇ、あたしたち妖精も、上の言うことやこれまでの仕来りなんて気にしないで、何がこのエデンにとっていいことなのか、1人1人が自分で考えていくことが大事なのよぉ~! もっと自分の感じてること、思ってることに自信持たなくっちゃぁ~♪ わかったぁ~?」
「は、はい~、わかりましたですぅ~」
マーヤに合わせて語尾を伸ばしてる。そういうとこは真似しなくていいと思うが……。
「よろしぃ~! いいお返事よぉ~♪」
満足そうにうなずくと、彼女は上機嫌で朋也たちのテーブルに戻ってきた。
「クルル、マーヤの演説に感激しちゃったよ。こうやって少しずつエデンがいい方向に変わってくといいね♪」
「エヘヘ~、あたし、もしかしたら女優の才能あるのかもぉ~♪ この際転業しちゃおうかしらぁ~♥」
クルルに煽てられ、ますます調子に乗る。
「あんたが万年C等の落第生だって教えてやったら、あの子たちどんニャ顔するかニャ~♪」
ミオが意地悪な笑みを浮かべる。
「それはやめてねぇ~(T_T)」