「何ヲ企ンでいルかとオッシゃラれる？　別ニ何も。私ハ自分の使命を果シテイるだケデす。脳ヲ溶かスノガ私の仕事デす。ソれが私の存在意義デス。ソもそモ、私を生ミ出シたのハ他でモナいあナた方ノハずでスがね……。実に楽しイデすよ、脳ヲ溶カすのハ♪　記憶トいう生のえッセんスガ流れ込ンデくる。灰白質に刻マレた電位ぽテんしャルニ過ぎナいものガ、カくもまロヤかナこクと深イ味ワいを持ツトいうノハ驚きですナ。夢、思い出、甘ク切ナく時にはホろ苦イ愛ノ記憶……。アナた方生物は、私ニ糧を提供シテクれる実にアりがたいでバイすデス。いズれ世界中ノスべテの脳ヲ溶かシテ、１ツの壮大なでータベーすヲ完成サせルノが私の夢デす。紅玉ノ世界も、碧玉の世界、コノエでんモね……。きまいラとイウノは世界最高の頭脳ヲ３つモ持ッていルんデスナあ。素晴ラシい！　ぜヒオ会いシて、彼ノ脳を吸イタいもノでス」
「ちっ、新手のモンスターってわけね」
　ミオが苦々しげにつぶやく。
　どうやら生きた住民にとり憑いてそのまま身体を乗っ取ってしまう今までにないタイプのようだ。シエナの街に出ていた行方不明者もきっとこいつの仕業に違いない。ウシ族に成りすまして市民を連れ出し、餌食にしてきたんだろう。発明品もすべて、出生地のニンゲンの記憶から取り出したにすぎなかったというわけか……。
「アなたノ脳にモ目を付ケてイタンですヨ。何しロ、コの世界に訪レタ新世代のにんゲん族とイう貴重な素材でスカら。で、そノ前ニ、あナたの愛すル者ノ記憶も前菜トシていタダいトこうカな～と考エタ次第でシて……。そチラのネこ族の方ハ、一般市民ニシてハナかナか容量が大キソうデすし。如何でス、私の中デオ２人の記憶ノえキスを溶カし合わセテみルといウのは？　新シイ愛の形とシて推奨でキマせんカネえ？」
　再び触手を伸ばして２人に襲いかかってくる。
「ふざけるな！！」
「冗談じゃニャイ、あたいの天才的頭脳には指１本触れさせニャイわよ！」
　立ち直ったミオをかばいつつ、戦闘態勢に入る。モンスターだとわかった以上、手加減の必要はない。こんなやつをエデンに増殖させたら、それこそ大変なことになってしまう。
「ミオ、無理するなよ！？」
「ＯＫ♪」
　２人で爪を使って触手を断ち切っていく。だが、四方八方から襲ってくる触手は、切っても切ってもすぐに再生して伸びてくる。やっぱり本体にダメージを与えないと駄目みたいだ。
「アメジスト！！」
　ミオがネコ属性魔法をお見舞いするが、ＢＳＥは余裕の笑みを浮かべる。
「ノんのン♪　魔法ニツいてハ研究を重ネマしてネ。こレはたダノ白衣じゃなイんデスよ。大概ノ鉱石魔法のダめージは吸収シてクレるんデす」
　仕方ない、あのワサワサした触手の中に飛び込んでいくのは気が引けるが……。朋也は素早く懐に入ると、必殺技の九生衝を繰り出した。スキルがＭＡＸまで上がったので、いまでは９連コンボも可能だ。
「オッと、魔法が駄目ナら物理攻撃とハ、思っタヨり単純な脳ミそですナ。もチロん、物理ダメーじダって──」
　彼に最後まで言わせず、朋也と入れ替わりにミオが飛び込んだ。
「ミ、ミオッ！？」
　必殺技発動の直後で息が上がっていた朋也は、彼女がまた触手に捕らわれないかと肝を冷やした。だが、ミオはＢＳＥに体勢を戻す隙を与えず、朋也と同じ必殺技を放った。しかも、１０連撃──。９連続が限度だと思ってたけど……正真正銘のネコ族のスキルにはやっぱりかなわないや。
　触手の動きが止まり、だらりと垂れ下がる。
「おカしいデスね。コんナはズは……モンすたーノレベるは元凶ノ負の力ニ比例するハずナノに……」
「あたいの気持ちはね、他の誰にも見せてやらニャイの……悪いわね♥」
　凶悪モンスターＢＳＥに寄生されたウシ族の身体は泡に包まれながら崩れていく。やがてそれは白い煙と化し、後には白衣と帽子、そして巨大なダイヤモンドだけが残された。