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 ミオはその場に呆然として立ち尽くしている。いつもなら真っ先に鉱石を手にニンマリしているはずだが、足元に転がる極上ダイヤを拾おうともしない。
「すまん、ミオ。来るのが遅れて……」
 朋也は面目なさげに頭を下げた。
「……ちょっと油断しちゃった。ただのエロ男だったら自分でニャンとかできるつもりだったからさ……」
 そこで朋也を振り返ると、ミオはいきなり抱きついてきた。
「……怖かったよ……」
 肩を小刻みに震わせている。そりゃ、あんなホラー映画じみた化け物に生きながら脳を吸われそうになったんだから無理もないよな。
「本当に、ごめんな……怖い目に遭わせて……」
「うん……」
 普段のミオだったら軽口の1つもたたいているところだが、茶化すこともなく、ただ小さくこくんとうなずく。まだ少し震えているのが伝わってくる。
「……朋也……ギュッとしてくれる?」
 ミオは顔を胸にうずめたまま、そっとささやいた。
「ああ、いいよ。こうしてると、あのころを思い出すな……」
 華奢な身体に回した腕にもう少しだけ力を込め、幼い仔猫をあやすように優しく声をかける。
 朋也が思い出したのは、向こうの世界で木から降りられなくなった彼女を助けたときのことだ。家に帰ってからもずっとしがみついて離さなかったっけ。あのとき、ミオがそばにいて欲しいと思ったときにそばにいてやろうって、自分に誓ったんだよな。どんな怖いことがあっても、忘れさせてやれる、安心させてやれる、彼女にとってそういう存在でありたいって……。
 この世界へ来てから、ミオは彼にとって異性として気になる存在に変わってしまったけれど、その気持ちだけは今でもあのときのままだった。
「……もっと……もっと強く抱いて……」
「ごめん……もう二度と、1人で怖い思いはさせないから……」
 朋也はそのままずっと、彼女の震えが収まるまで抱き続けた──


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