千里は腑抜けたように呆然とその場に立ち尽くしている。朋也が声をかけた。
「やったぜ! さすがだな」
返事がない。ひょっとしておかんむりだったり……。ああはなりたくないんですけど(T_T)
「千里? やっぱり、怒ってる? 本当にごめんな、来るのが遅れて……」
すると、いきなり彼女は朋也にしがみついてきた。
「ごめん……ちょっとの間、我慢してくれる?」
抱きついたまま、小刻みに肩を震わせる。
朋也は彼女の肩をそっと優しくさすってやった。そりゃ、あんなホラー映画じみた化け物に生きながら脳を吸われそうになったんだから無理もないよな。女の子は強いっていうけど、映画で観るのと現実に自分が襲われるのとじゃ大違いだ。
千里は自分で震えを抑えようと努力してるみたいだが、なかなか止まらない。
「ごめん……ごめんね……もう少しだけ……」
「バカだな。お前みたいな素敵な女の子に抱きつかれて、嫌なわけないだろ?」
「もう……」
はにかんで笑顔を見せる。どうやら少し落ち着いたようだ。
「でも、ありがとう……。あなたが来てくれて、すごくうれしかった……」
「おまえがピンチに遭った時はいつだって駆けつけるさ。今度はもっと早く、ね」
「うん……」
初めて会った小学生の頃から、いつも彼女のほうが一回り大人だった。何をやらせても自分よりよくできて、いつも彼女に頭が上がらなかった。その千里が、こうしていま自分を頼りにしてくれるのが、素直に嬉しかった。彼女もやっぱり女の子なんだな……。もう二度と彼女をこんな目に遭わせないよう、自分がしっかりしなきゃ……そう心に誓う。
朋也はそのままずっと、千里の震えが収まるまで抱き続けてやった──