「……今度は間違いないんだろうな?」
「間違いないない」
「ダリとピラミッドだな!?」
「そうだよ。しつこいね、君も」
なんかムカついたけど、その場は矛を収める。すでに〇時近かったが、眠気はすっかり消し飛んでしまったし、このまま引き下がるのも癪だったので、ともかくミオの後を追ってダリに向かうことにした。再びエメラルド号にまたがると、今度はさっきと反対の南に進路を取る。ダリの街はシエナの南東40キロ近くに位置し、ピラミッドはその更に先にある。
砂漠に取り囲まれたオアシスにあるダリはイヌ族が大半を占める都市だ。冷帯地方出身のオオカミが先祖なのに砂漠に住んでるというのも妙な気がするが、ともかく現在エデンでイヌ族の人口が一番多い街だと聞いている。彼ら一族の守護神ウーの棲むピラミッドが近くにあるためなんだろうけど……。
そのイヌ族の街とピラミッドに、一体ミオが何の用があるのか、イゾルデの塔に行くのと同じくらい腑に落ちない話ではある。あのネコ族、どうも胡散臭いところがあるし……。まあいい、とりあえず捜してみて見つからなければ問い質そう。今度もでまかせだったらとっちめてやる。
ほどなくダリの町が見えてきた。高くはなかったが、周囲には塀が張り巡らせてある。そこで、朋也ははたと昨日の昼のシエナの街での出来事を思い出した。あの千里が突っかかられるくらいだし、ヒト族の自分がこんな夜中にやってきたっておいそれとは受け入れてくれないだろうな……。
門から少し離れたところでエメラルド号を停め、用心しながら徒歩で近づく。と、何やら街の中のほうからざわめき声が聞こえてきた。
「おおーい、いたか!?」
「いや、見失った。くそ、逃げ足の速い泥棒ネコめ!」
何だか騒がしいな? 朋也が立ち止まって見ていると、何人かのイヌ族の男衆が外に出てきた。サーチライトを手に周囲を見回している。その光束のひとつが朋也の目を射た。
「!? おい、こっちに曲者がいるんだワン!」
「何!? やつの仲間か!?」
「捕まえろっ!!」
朋也に気づいた5、6人の男たちが真っすぐ駆けてきた。「うちのトパーズ返せ~っ!!」とか怒号も飛んでくる。今着いたばっかで何も身に覚えがないのに……。成熟形態のイヌ族は本気を出すととんでもなく俊足なのを思い出し、彼は大あわてでエメラルド号に引き返すと、一目散に逃げ出した。
やれやれ、ここまで来れば安心だろう。町の灯がかすんで見えるほどの距離に遠ざかってから一息つく。
泥棒に入られたとか言ってたよな? エデンにもそんな盗みを働くような輩が現れるなんて由々しき事態だなあ。おかげでこっちはとんだとばっちりだよ、まったく……。
……。チラッとミオの顔が脳裏に浮かぶ。朋也はあわててかぶりを振った。まさかあいつが犯人だなんて、そんなわけないよな? ダリに用があるったって、お宝目当てとか、そういう目的じゃないはずだ……たぶん。いや、絶対。