あいつのことだ、まさか夜這いに来たわけでもあるまい。まあ、大体のところは想像がつくが……。
朋也は起き上がると身支度をして部屋を出た。廊下にもロビーにもいないところを見ると、外に出たらしい。ホテルを出て近場を捜してみるが、彼女の姿は見えない。どこ行っちゃったのかな? いくらエデンだと言っても、女の子が夜中にウロウロして以前のゲドみたいなやつに絡まれないとは限らないし……。名前を叫ぼうとしたとき、かすかな振動音が伝わってきた。居住区から少し離れた池のある公園付近だ。よし。
そばまで寄ってみると、ときどき池の周囲に生えた木々の間から光が漏れてくる。あんなとこで何をやってるんだ?
「ルビーLVⅠ!!」
池の対岸にパッと炎が燃え上がる。
「LVⅡ!!」
炎は対岸の一点を中心に輪となって広がった。
「もう一丁! LVⅢ!!」
さらに巨大な火の玉が弾け、一帯を焦がす。
「サファイア!」
凍気の風に煽られ炎が消えていく。
千里は荒い息を吐きながら、膝に手をついた。
「ハァ、ハァ……駄目だわ……。魔法って難しいなあ……。よっぽど集中力を持続させないと、コントロールが効かなくなっちゃう。まあ、魔法のコツなんて誰にも教わってないんだから当たり前か……」
足元の地面に目を落とす。
「こんな調子で本当にジュディを助けられるのかな……。相手は世界を司る神獣だっていうのに……」
「千里」
途中から彼女のレッスンの模様を参観していた朋也は、そこでやっと声をかけた。
「!? 朋也! ごめん、やっぱり起こしちゃった?」
びっくりして振り向きながら千里が言った。
「魔法の練習をしてたのか……」
「うん……もう時間はたいして残されてないけど、何しろ相手が相手だし、少しでも上達しなきゃって思って……」
「あんまり晩くまで根を詰めて無理するなよな? ジュディのことも心配だけど、千里の身体だって心配だよ。もし、千里が倒れでもしたら、それこそジュディに顔向けできないからな」
「ありがとう、心配してくれて。でも、私じっとしてられないの……」
少し恥ずかしげにうつむきながら視線を逸らす。それから彼女はしばらく池の向こうをながめていたが、そのまま視線を戻さず朋也に尋ねた。
「ねぇ……ジュディを覚えてる?」
「ジュディ?」
朋也はキョトンとして訊き返した。
「そう、〝ジュディ〟」
*選択肢 ジュディはジュディだろ? そうか、ジュディは‥