「そうかぁ? 別にそれほどでもなかったと思うけど。第一、言っちゃ悪いけど、200歳越えてるんだろ?」
朋也は肩をすくめて答えた。
「で、でも……私じゃ足元にも及ばないよ、ね……」
ちょっとすねたように足元の地面を靴でほじくりながらつぶやく。
こいつ、自分がクラスの男子には割とモテるほうなのに、自覚がないみたいだな。もっと自信を持ってもいいのに。まあ、確かにイヴはいかにも絵画や彫刻のモチーフに相応しそうな美人ではあったから(光の演出効果もあったと思うが)、それだけ差を意識させられるのかもしれないが。それとも──
「……もしかして、胸のこと言ってんのか? デカけりゃいいってもんじゃないだろ? ウシじゃないんだから。人並にあれば別にいいんじゃないの?」
「バ、バカね!」
自分の胸を隠すようにしながら後ろを向く。
朋也としては、世の男どもに巨乳好きが多いのは不思議でならなかったし、連中と一緒にして欲しくはなかったりした。大きいと肩が凝るだけだと聞いてるし、狭い所も通れないし、垂れるの早いし。イヌもネコもおっぱいペッタンコだって十分カワイイじゃないか! 朋也の判断基準からすれば、千里は十分合格ラインだ。判定を下せるほど繁々と観察したわけじゃないけど……。
しばらくして、千里がおずおずと切り出した。
「……あの、さ。朋也って、どういうタイプの子が好みなの?」
……。ううん、どうしよう? 朋也は迷った末に思い切って当たって砕けることにした。
「えっと……イヌが大好きな女の子、かな」
「そ、そう……」
千里はそれを聞いて真っ赤になってうつむいてしまう。
「そ、そういう千里はどうなんだよ!?」
「え? そ、そうね……イヌが好きなのはもちろんだけど……ネコが好きな人も悪くないかな……」
それって──胸が早鐘のように高鳴る。が、次の瞬間、千里は頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「お願い、今の忘れて!! 私、ものすごく恥ずかしいこと言った」
……いいムードだと思ったのに。
しばらくして、彼女は目を逸らしながらしんみりした声で謝った。
「……ごめんね、朋也。私、今はあの子のことしか考えられないや……」
ジュディが1人で辛い思いをしているのに、自分たちがここで惚気てるわけにはいかない。千里のことが本当に大切なら、彼女の気持ちを汲み取ってやらなくちゃな……。
「ああ。もちろん、ジュディを助けだすのが最優先事項だよな」
朋也はうなずくと、その件は忘れたことにし、話題を変えた。
「で、行くのかい? イゾルデの塔へ。幽霊が出るって噂だけど?」
「もちろん! ジュディの命がかかってるんだもの、幽霊なんてへっちゃらよ!」
そこまで言ってから、朋也の顔をのぞき込む。
「……朋也、ひょっっとして怖いの?」
「こ、怖いもんか!」
いったんは虚勢を張りつつ、確認する。
「やっぱり今夜のうちに行くの?」
本心ではせめて日中にして欲しい……。が、彼の要望は受け入れられなかった。
「当然よ♪ 善は急げっていうでしょ? ま、オバケが出たら私の魔法で追っ払ってあげるから安心なさい♪ さ、行きましょ!」