朋也たちはホテルの前に駐車してあったエメラルド号のところに行った。千里をサイドカーに乗せると静かに滑り出す。
　城門まではそろそろと徐行運転で進む。シエナには夜行性の種族も多く、日が暮れても大通りに人は絶えなかった。通行人はみな自走車に乗ったヒト族の２人連れが来ると、ジロジロとヘンな目で見ながら道を開ける。まあ、慣れてもらうまでは仕方ないか。ただ、城門の守衛には行方不明事件解決の報せが渡っていたとみえ、すんなり通してくれた。
　門の外に出ると、一路北を目指す。夜間フィールドに出没するモンスターは日中よりもレベルが高く、夜行性の住民も含め市街地の外を移動しようとする者はまずいない。
「飛ばすぞ。しっかりつかまってろよ？」
「ラジャー」
　早いとこ済ませたいと思った朋也は、スロットルを全開にして時速１００キロまでスピードを上げた。道の両側の木々や廃屋が飛ぶように過ぎていく。切ったばかりの千里の髪が、風防から回り込む風にふわりと揺れる。
　途中、千里が襲われた墓地を通過する。あんな目に遭った後で、よくオバケの出る塔に平気で行く気になるもんだ。やっぱり女の子のほうが免疫は高いんだろうか？
　３０分で塔に到着する。２人は入口の手前でエメラルド号を降りた。
「ここがイゾルデの塔か……」
　半月の夜空に浮かんだ塔のシルエットはシエナの街を出たときから既に見えていたが、こうして間近に眺めると頂上を仰ぐだけで首が痛くなるほどだ。高さは４０階建てくらいあるだろうか。その割に、建物の断面積は驚くほど狭く、風が吹くだけで折れるんじゃないかと不安に駆られる。昼間街の住民から聞いたところでは、１７０年前にモノスフィアに逃げそびれたヒト族の残りが収監された場所ということだった。
　イヴもやはりその１人なのだろうか？　彼女は、神鳥フェニックスを殺して紅玉を奪い、封印を解いた張本人は自分だと主張したが、だとすれば当然モノスフィアに渡っていなければおかしいのではないか？　そんなに悪い人にも見えなかったし……。なぜ２００歳まで生きていられるのかという根本的な疑問も含め、彼女には訊きたいことがたくさんある。
だが、その前にまずこの塔を最上階まで登らなくちゃならない。
「さあ、入った入った！」
　朋也が腕組みしながらずっと見上げていると、千里がせかした。
「お、おい、背中押すなったら！」