ドアを潜り抜けると、中は全体に暗く、塔の1階は1つのホールになっていた。大理石の壁にうがたれた壁龕のほのかな灯りに照らされた室内はがらんとして聖堂か教会のようだった。朋也と千里は1歩1歩足を進めていった。
と、2人の前方に人の姿をした影がぼおっと浮かび上がった。
「うわっ、早速何かお出ましだぞ!? あれがイヴ……なわけないよな」
フードを目深にかぶった男性の姿をした亡霊は、ゆらゆらと蠢きながら2人に向かって近づいてきた。
≪ククこの呪われし塔へわざわざ足を踏み入れた愚か者は誰かと思えば、まだほんの子供ではないか≫
「こ、こいつ、幽霊のくせにしゃべりやがった!」
「しゃべる幽霊くらいいくらでもいるわ。それより来るわよ! びびってないで戦闘態勢を整えて!」
千里はあくまでも冷静だ。
≪あの女の餌食になるくらいなら、いっそヒトの王たるこのアダムの復活のためにその魂を捧げるがいい!!≫
あの女? 疑問を思い浮かべる間もなく、その男の幽霊は攻撃をしかけてきた。こちらも応戦に入る。
攻撃パターンは属性魔法のブラッドストーンと銃技。ヒト族固有のスキルだ。ということは、幽霊になる前はニンゲンだったってことか。幽霊のくせに銃をぶっ放してくるのも変な話だが。あの銃には実体があるんだろうか? それとも、銃も幽霊なのか?
「ルビーッ!」
千里の魔法攻撃を受けて、亡霊の姿が風に吹き消されかけた蝋燭のともし火のように大きく揺らぐ。やはり火属性の効き目が高そうだ。
一方、物理攻撃主体の朋也はあまり効果的なダメージを与えられない。だが、千里が呪文の詠唱に入り無防備になる間は、朋也が前衛に立って彼女を守らなければならない。
「ルビーⅢッ!!」
属性の相性を確認してからは、千里は最大レベルのルビー1本に絞り、魔法を連発し続けた。ステータス絡みの亡霊の攻撃は嫌らしかったが、ほどなく決着はついた。
≪クク……哀れな子らよ、もはや手遅れだ……お前たちもこの塔で永久に呪われ続けるがいい。我とともに……クク……≫
意味深な捨て台詞を残し、亡霊はかき消すようにいなくなった。
「一体何だったんだ、今のは!? この塔に入ったら呪われるだって? そんな話は聞いてなかったぞ!?」
朋也が思ったとおりに疑問を口にする。千里はそんな朋也を振り返り、不安げにじっと見つめた。
「ねえ、朋也……もしかして、本当に怖いの? 苦労してここまで来たのに、まさか回れ右して引き返すなんて言わないよね?」