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ジュディ: --

「う~ん、いいかっつってもなぁ……」
 どっちが利用したかっていってもな……屁理屈次第でどうにでも取れそうな気もするし……。考えた挙げ句、結局朋也はサジを投げた。
「……やっぱわかんないや」
「いいよ、別に。朋也に聞いてもアテになんないから」
 どうせ俺は千里と違ってバカだよ……。
「3番でよいか? よいんじゃな!?」
 コボルトは念を押すように尋ねると、何を思ったのかいきなり大刀を振りかざして言った。
「ふむ……。では、その答えの正しさ、お前さんたちの絆の深さをもって証明してもらおうか!!」
 巨大な大刀の切っ先がブンと風を切って朋也の胸先を掠める。結局こういうことになるのか……。2人とも剣を抜いて身構える。後はもう、2人の息の合ったところを見せるしかない。
 コボルトの太刀筋は大振りで見切るのは難しくなかったが、腕のリーチも身長もあるだけにまともに受けるのは危険だった。何しろ、風圧だけでもよろめくほどだ。おまけに盾がどでかい棺の蓋だけに、なかなか攻め込む余地がない。飛燕剣を繰り出しても簡単に防がれてしまう。
「さあ、どうした? わしに勝てんと正解はやらんぞ?」
 甲冑の下からのぞくギョロ目をにんまりさせて挑発する。
 ジュディが朋也の側に駆け寄って素早く耳打ちした。
「朋也……あれ、やってみようよ」
 あれというのは、シエナからの道中に2人で思いついた新しい連携技だった。威力のほどは未知数だったが、うまく決まればコボルトのガードがどれほど固かろうと怖くはない。
「行くよ! 牙狼!!」
「三連尖っ!!!」
 2人の奥義をほぼ同時に繰り出す。一点に集中する力積は凄まじい破壊力をもたらすはずだ。
 コボルトの動きが止まった。身長より長い分厚い棺の盾の中心に1筋の亀裂が入り、真っ2つに割れる。1つ目玉をパチクリさせてから剣を収めると、彼は大きな体を揺すって高らかに笑い出した。
「ガッハッハッ!! 見事じゃ、2人とも! わしの完敗じゃよ♪ よろしい、左の関門はこれでクリアじゃ!!」
 2人はホッと息を吐いた。彼の差し出してきた大きな手を握り返す。
「ありがとう、コボルトの神様♪」
 ジュディも顔を綻ばせながら、両手で彼のゴツゴツした手を握り締めてブンブン振り回す。課題を1つクリアできたことで大いに自信をつけたようだ。
「……詳しい事情は知らぬが、お前さんたちは〝あの世界〟からの移民じゃな?」
「ああ」
「そうか……。3番をもって正解と言えるのは、この世界、エデンでの、それも170年前までの話じゃ。残念ながらな……」
 コボルトの目に悲しみの色が浮かぶ。そうだな……俺たちの世界じゃ、正しい解答は1なんだもんな。本当は間違ってるはずなのに……。
「わかってる……。ダリでも石を投げられちゃったよ。おかげでこの子にまで辛い目に遭わせちゃったし。俺も千里も、君たちの一族には本当にすまないと思ってる」
 朋也が深々と頭を下げると、コボルトはあわてて弁解した。
「ああ、悪かった。お前さんを責めるつもりじゃなかったんだよ。お前さんは……そう、わしの知るあの頃のヒト族と何も違わん。わしら一族の同胞じゃとも。そうじゃ、こうしてお前さんに巡り会えた記念に、クイズ正解のご褒美を兼ねてこいつをお前さんにあげよう♪」
 そう言うと、棺の中から盾を取り出す。さっきの蓋と違い間に合わせじゃない正真正銘の盾だ。
「この盾はバーナードの盾といってな、魔法のダメージも軽減してくれる最高級の一品じゃ」
「いいのか!? こんな凄い代物……」
「遠慮は要らんて。正解者への賞品じゃてな♪」
 ありがたく受け取ることにする。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
「さて、我が主カニアス=ウーに会うためには、右の玄室でもう1つの謎に挑戦せねばならん。あっちにいる相棒はわしよりカタブツじゃから、どこまでサービスしてくれるかわからんが、頑張るとええ」
「うん、頑張るよ♪ それじゃあね、コボルトの神様! あ……だけど、棺の蓋壊しちゃったね……。ごめんなさい」
「気にするな、気にするな。こんなもん唾つけときゃすぐくっ付くわい♪」
 彼に手を振って別れる。帰りはミイラたちが一斉に姿を消し、難なく入口に戻ることができた。
 続いて2人は右の玄室の攻略にとりかかることにする。既に〇時を回っていたが、2人ともまだ休みをとる必要を感じなかった。とりわけジュディは、今夜のうちに是が非でもウー神と会おうとやる気満々だ。


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