残るはいよいよウー神との対面だ。2人は月明かりに照らし出されたピラミッドの頂上を仰ぎ見た。時刻は既に午前2時を指していたが、胸がドキドキしてきて眠気など吹っ飛んでしまう。ジュディも同じ気持ちのようだ。
彼女は緊張しながら踊り場の先の階段に足を踏み出した。先ほど立ちはだかった光の壁が現れる。
≪先に進むがよい≫
メッセージとともに障壁はふっと消滅した。2人は並んで一歩ずつ階段を上がっていく。
ジュディが手を握ってきた。そっと握り返してやる。自分の一族の守り神に直に面会するのだから、それだけ期待と不安の気持ちでいっぱいなんだろう。
ピラミッドの頂部が近づく。昇るにつれて夜空の面積が大きくなり、なんだかこの階段が宇宙空間に向かってずっと伸びているような気がしてくる。数えていなかったが、上下合わせると四国のどっかの山寺くらいありそうだ。ウー神の姿はまだ見えない。
2人はやっと頂上にたどり着いた。ピラミッドの天辺は平らでビルの屋上を思わせた。
不意に辺りが目を開けていられないほどまばゆい明かりに包まれる。目の前に光が凝集し、やがて人の姿をとった。あれがウー神!?
シエナとダリの社の前に立っていた彫像のとおり、ローブをまとい右手には長い鉄杖を持っている。コボルトのような巨人でもなく、見た目は少し大柄なイヌ族と変わりなかったが、空気がピリピリ震えるほどの凄まじい威圧感を感じる。
≪我はカニアス・ウー。イヌ一族の守護神なり≫
「あなたが……ボクたちの神様!!」
ウーは黙ってじっと2人を見下ろしていたが、やがて口を開いた。
≪我が地上で姿を現すのはこの170年で2度目のことだが……一体どのような者がここまでたどり着いたのかと思えば、紅玉の封を解きし異端種族の男を連れた女とはな……。一族の聖地にそのような者を伴ってくるとは、どういう了見なのだ!? 女、申してみよ!≫
猛々しい目つきで2人を見据える。有無を言わせぬ強圧的な態度だ。ジュディの足元が少し震えているのがわかる。それでも彼女は勇気を振り絞って前に出た。
「ウーの神様! ニンゲンだって悪い奴ばかりじゃないんだ! ご主人サマや、朋也や……ボクの周りにいる人はみんないい人だよ! 本当なんだっ!!」
≪……その男はお前の主人なのか?≫
「違うよ。朋也は……ボクの……好きな人、だよ……」
最後のほうはほとんど消え入りそうな小さな声だった。チラッと朋也のほうを見て目を背ける。まさか、守護神と対峙してるときに告白されるとは思わなかったな……。
「ジュディ……」
ウー神は今度は後ろにいる朋也に目を向けた。険しい表情は相変わらずだ。
≪……ヒト族の男よ。1つ尋ねるが、ここに来るまでの間、お前がこの者に代わって謎を解いたのか?≫