彼女の姿に見惚れたらアウトだ。だったら……そうだ、彼女の名前に意識を集中させよう。ひたすら彼女の名前だけに。
ディーヴァ……ディーヴァ……ディーヴァ……。座禅を組むとき雑念を払うために呼吸を数えるみたいに、朋也は彼女の名を口ずさみ続けた。ディーヴァ……ディーヴァ……なんで彼女だけ同じ妖精なのに番号でなく名前で呼ばれているんだろう? ディーヴァ……ディーヴァ……それにしても……ディーヴァ……ディーヴァ……なんて素敵な名前なんだ……ああ、ディーヴァ……。
彼の引き伸ばし作戦は失敗に終わった……。
すっかりディーヴァの術中にはまった朋也は、目を大きく見張り、口元をわななかせるマーヤの胸に狙いを定め、弓を引き絞った。
今にも彼の手から矢が放たれようとしたとき、突如中央の巨大な装置のパネルが強烈なグリーンの光で満たされた。テンプテーションの効果が一瞬にして切れる。
≪ディーヴァよ。その者に手出しはならぬと言ったはずだ≫
「キマイラ様っ!?」
どこからともなく響き渡る上司の声に、ディーヴァは狼狽しながら抗議の声を上げた。
「で、ですが、私には一族すべての者に対する生殺与奪の権限が!」
≪1人を除いては、だ≫
有無を言わせぬ宣告の前に、ディーヴァはがっくりと膝を折った。
ブーンという低いうなりとともに、巨大な装置の前面に並ぶたくさんのランプが複雑なパターンを描いて点滅し始めた。うずくまったディーヴァの身体がいきなり白く輝きだす。あふれ出した光はそのままマーヤ目がけて流れ込んでいく。2人の羽の模様が呼応するかのように明滅する。
「あああああっ!!」
「マーヤッ!?」
彼女の悲鳴を聞いて、朋也は閃光の中を手探りするように腕を伸ばした。手が何かに突き当たる。丸みを帯びた彼女の肌だったが……これは……彼女の、胴? いや、太腿? 違う、腕だ……。いきなりこんなに太った??
光が収束すると、目の前に少女が立っていた。背丈は朋也の顎くらいしかない(いや、くらいもあるというべきか……)。腰まである長い髪はピンク色。広げると2メートル近くありそうな蝶を思わせる虹色の羽、そして頭には1対の触角。
一瞬ディーヴァかと思って焦ったが、もちろん彼女じゃない。困惑した表情で自分を見つめていたのは、さっきまで70センチほどの体長しかなかったマーヤその人だった。
「ど……どうなって???」