そうだ、年齢がいいぞ! 彼女はいくつだ!? 975歳だっ!! 975歳……975歳……。朋也は呪文のように心の中で繰り返し唱え始めた。
「……こ……の…………バァ……」
「え?」
朋也の腕が止まり、顔つきが変わったのを見て、ディーヴァが困惑気味に訊き返す。
もう少しだ……もっとイメージを膨らませろ……こいつは、正真正銘の──
「こ……の……クソババァッ!!!」
ついに朋也は呪縛に打ち勝った。引き絞った弓を命令した本人に向けて放つ。矢は真っすぐディーヴァの胸を貫いた。
「な!! ど……う……して……」
ディーヴァは信じられないという目で、自分の胸板に刺さった矢を見つめた。
「朋也ぁっ!」
マーヤが彼の胸に飛び込んできて首に抱きつきながら頬を摺り寄せる。やっとテンプテーションから解放された朋也は、彼女のほっそりとした背中をやさしくなでながら、タネを明かしてみせた。
「あいつの年齢を聞いておいて正解だったよ。皺くちゃ婆さんのイメージを重ねるのはエライ苦労したけど……」
「なぁるほどぉ♪ ……でもぉ、それを言ったらあたしだって197歳だよぉ?」
マーヤがふくれて指摘すると、答えに詰まる。
「そだね……。ま、まあ、愛がないとやっぱり歳の差は重大な障害になるってことかな?」
ディーヴァは静かに目を伏せると、側にあった端末装置の1つに力なくもたれかかった。!? なぜ自分にセラピーを使おうとしないんだ!? 彼女だったらいくら瀕死の重傷を負ったってあっさり回復できそうなものなのに。
「私の負けね……」
自嘲気味に微笑む。初めて彼女に会ったときと同じ、何もかも悟り、あきらめきったような表情だ。
「……千年も生きているとね、エデンの7千万の市民の命を預かり24時間管理する業務についていてさえ、退屈を覚えるものなのよ。それで、あらゆる種族の、あらゆる愛の形態を、研究してみたの……ちょっとした余興でね。でも……自分が他の者を恋愛の対象とみなそうとは……誰かを愛そうとは、考えもしなかった……。生殖と無縁な妖精である私には意味のないことだから。それが敗因だったわ……」
彼女の羽のパターンが激しく明滅し始める。それに呼応するかのように、マーヤの羽も光り始めた。光は羽の模様だけでなく全身に及び、ついに2人の身体が白熱したオーラに包まれる。まぶしくて目を開けていることもできない。
「あああああっ!!」
「マーヤッ!?」
彼女の悲鳴を聞いて、朋也は閃光の中を手探りするように腕を伸ばした。手が何かに突き当たる。丸みを帯びた彼女の肌だったが……これは……彼女の、胴? いや、太腿? 違う、腕だ……。いきなりこんなに太った??
光が収束すると、目の前に少女が立っていた。背丈は朋也の顎くらいしかない(いや、くらいもあるというべきか……)。腰まである長い髪はピンク色。広げると2メートル近くありそうな蝶を思わせる虹色の羽、そして頭には1対の触角。
一瞬ディーヴァかと思って焦ったが、もちろん彼女じゃない。困惑した表情で自分を見つめていたのは、さっきまで70センチほどの体長しかなかったマーヤその人だった。
「ど……どうなって???」