朋也たちは、モルグル地峡を抜けるまでにえらい時間を食ってしまった。さすがに吊り橋をエメラルド号で渡るわけにはいかないので、迂回路を探すのに手間取ったのだ。
大陸西部側の出口に着いた頃にはすでに午前1時を回っていた。目の前にテレッサ平原が広がる。ここを通ってオルドロイ神殿に向かったのはほんの数日前のことなのに、なんだかひどく懐かしい感じがする。それだけ、濃密な時間を過ごしてきたという証拠ではあるけれど……。
さすがに頭がぼんやりしてきた。信号も対向車も存在しないエデンなればこそ事故らずに済んでいるものの、向こうの世界だったらハンドルを握れる状態ではない。
「一応予定どおり、ユフラファで一泊してくってことでいいかい? こんな時間に村に入るのはちょっと気が引けるけど……」
クルルに一応確認する。昼夜の別なく活気の失せない大都市のシエナやビスタと違い、小規模な農村のユフラファはみな規則正しい生活サイクルを送っていた。ちなみに、アナウサギは半夜行性で朝夕が活動の中心だが、ネコやイヌも含め同様の習性を有する種族は成熟形態になると基本的には昼型に移行するらしい。そういうわけで、こんな夜更けじゃ村中寝静まっている公算が大だ。まあ、エメラルド号は制音性能がいいので、徐行すれば寝てる村人たちをたたき起こすことはないだろうけど。
「とりあえず今晩は公民館にでも泊めてもらおっか? 朝になったらおばさんとこに挨拶に行けばいいよ」
「おばさん?」
「あれ? 朋也に言ってなかったっけ? クルルがビスタへ仕事を探しに行くまでお世話になってたんだ。ラディッシュさんていうんだよ」
……もしかしてクルルって、一番身近な身内がおばさんなのかな? 親はどうしたんだろう? まあ、明日紹介してもらうついでに訊けばいいか……。
南に向かう街道をスピードを上げて驀進するうちに、やっと前方にユフラファの灯りが見えてきた。途中のルネ湖そばの三叉路を西に折れ、再び北上するとインレ方面に向かうことになる。とりあえずいまは真っすぐ通過してユフラファの村の入口を目指す。ほどなく村に到着した。
「おばさんが起きてないか、ちょっと家に行ってみるよ」
なんでも、趣味でたまに晩くまで編物をしていることがあるとか。まあ、あまり期待しないほうがよさそうだけど。
「じゃあ、俺はこいつをどっか適当に置いてから直接公民館にいくから、泊めてもらえそうだったら呼びにきてくれないか?」
「うん、わかった!」
「……ごめん、クルル。その前に1つ訊いてもいいか?」
村の中に行きかけたクルルの背中に呼びかけ引き留める。やっぱりさっき教えてもらったことがどうも引っかかっていたのだ。
「なに?」
「今頃になってこんなこと聞くのも変だけど、クルルって家族はどうしてるの?」
少しの間を置いてから、クルルはうつむき加減に答えた。
「クルルは……お父さんとお母さんの顔、知らないんだ……」