時計はもう10時を指していた。神木の呼び出しか何か知らないが、こんな時間に出かけなくちゃならないとすれば、よっぽど大変な事態が起きたに違いない。
「なあ、フィル。そんな水臭いこと言わないで、よかったらその事情ってのを聞かせてくれないか? 俺、フィルには助けてもらってばっかで何のお礼もできてないし……だから、こういう時こそ力になりたいんだ」
朋也はベッドの縁から両足を下ろし、改めてフィルに向き直った。
「朋也さん……」
フィルは少し逡巡していたが、彼に促され意を決したように事情を説明した。
「わかりました、お話しします。実は……例のモンスター化したアリが地下に巣を張り巡らして、神木の根が危険な状態に……それで、森の木々がSOSを──」
朋也はガバッと立ち上がった。
「なんだって!? そりゃ一大事じゃないか!! よし、わかった、俺も一緒に行くよ!」
「でも……」
「なぁに、9日以内に解決して戻ってくりゃ済む話だろ?」
「ありがとうございます、朋也さん。このご恩は一生忘れません」
フィルは深々と頭を下げた。
「大げさだなあ、フィルは。それに礼を言うのはまだ早いぜ? 何とかして神木を守らなくちゃな。みんなを呼び集めてる余裕はないし、書置きだけして2人でクレメインへ急ごう!」
パーティーの仲間たちに残す伝言のほうはフィルに任せ、自分はその間に装備をざっと確認する。ミオのやつ、夜歩きから戻ってきて俺がフィルと出かけたのを知ったらきっと怒るだろうけど……。
ロビーで合流してホテルの玄関を出ると、朋也はフィルに声をかけた。
「フィル! 俺、なるべく急いで駆けつけるから、先にクレメインに戻っててくれていいよ」
「そうしたいのですが、今は森の樹々がアリからの防衛に手一杯で、私のテレポートにエネルギーを割く余裕がないのです。ですから、私も朋也さんと同行させていただきたいのですが」
「そうか……。ごめん、俺たちにつき合わせた所為で余計な手間をかけさせちまうな」
「そんな……朋也さんが謝らないでください」
「よし、じゃあエメラルド号を使うか」
ホテル前に停めてあった2人乗用のサイドカーに向かうと装備を積み込む。
「じゃあ、フィル、そっちに乗ってくれ」
彼女は朋也に促され、ローブの裾を少し持ち上げてサイドカーに乗り込んだ。
「よし、じゃあ出発だ! 一刻も早くクレメインにたどり着かなくちゃ。少し飛ばすから揺れると思うけど、我慢してくれよ?」